セブン&アイとNECの協業にみるITの新たな役割Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年02月23日 12時24分 公開
[松岡功ITmedia]
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「製品」の共創から「ビジネス」の共創へ

 一方、IT市場では、世界同時不況によって需要が急減。そうした中で、研究・開発が市場の変化のスピードに追いつけず、ズレが生じてきている。さらにこれまで付加価値を高めてきたサービスが細分化し過ぎたことで、コストが増加する傾向にあるという。

 こうしたことからIT企業にとっては、グローバル最適化への取り組み、市場の変化に対応した研究・開発、「モノづくり」への原点回帰といった点が課題としてあげられるという。

 このように両市場を捉えている鈴木社長は、両社の協業に向けてこう考えたという。

 「流通とITは違う業界ながらも、市場環境や企業が抱える課題は本質的に似通っている。ならば、業界の垣根を越えた『共創による革新』を起こしていこうではないか。むしろ、こんな時こそ、そうしたアクションが必要なのではないかと考えたのが、今回の協業につながった」

 では「共創による革新」とは、具体的にどのようなものなのか。そこで鈴木社長が事例としてあげたのが、セブン&アイ・ホールディングスの村田社長が先に話したコンビニエンスストアの発注システムである。「ターミナル7」と呼ばれたそのシステムは、当時の流通業界では初めて単品管理や発注管理を実現。NECが当時のセブン-イレブンから依頼を受けて開発し、納めたものだ。

 「ターミナル7はまさに共創による革新。折しも30年前は第1次オイルショックの真っ直中で、現在と同様、不況といわれた時期。そんな時期に生まれたターミナル7はその後、流通業のIT化の象徴であるPOSシステムへと発展していった」(鈴木社長)

 そして30年経った今、セブン&アイ・ホールディングスとNECがセブンインターネットラボの設立によって目指すのは、第2の「共創による革新」だ。「30年前、両社は『製品』の共創によって流通・IT業界に革新をもたらした。今回は『ビジネス』の共創によって革新を目指す」と鈴木社長が語れば、NECの相澤正俊副社長も「両社が共創すれば、世界に通用する新しいビジネスモデルを生み出せる」と応じた。

 「製品」の共創から「ビジネス」の共創へ。これは取りも直さず、ITそのものの役割の変化でもある。

 ただ、「現時点ではどういう形で新しいものが生まれてくるのか、描けていない。今は形が見えないが、おそらく2、3年後にはネットを活用した新しい事業が大きな花を咲かせるだろうと期待している」(村田社長)というように、新たなビジネス像を具体的に描くのはこれからだ。はたして合弁会社の研究成果がどのように出てくるか。

 米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長が最近、世界同時不況後をにらんでこんな発言をしている。

 「勝者は嵐を生き延びた者ではなく、ゲームのルールを変えた者だ」

 革新、そしてITの新たな役割、それはゲームのルールを変えることなのかもしれない。

プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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