SAPが示した「経営を支えるIT」主役の座Next Wave

SAPジャパンは、2月24日、ビジネス・スイート「SAP Business Suite 7」を発表した。激変するビジネス環境への対応力強化を強く打ち出したこの新製品は、「経営を支える基幹製品」の進化を感じさせる。

» 2009年02月25日 06時00分 公開
[大西高弘,ITmedia]

基幹製品の導入イメージを変えるか

sap 「グローバルな競争を打ち勝つためのIT基盤を提供したい」と語るギャレット・イルグ代表取締役社長

 「SAP Business Suite 7」は「SAP Business Suite」の最新版。拡張用のパッケージであるenhancement package(エンハンスメントパッケージ)に対応しており、機能拡張に際しても、最小限の稼働中断で新機能を容易に選択適用することを可能としている。さらに「SAP BusinessObjects」ポートフォリオの持つ分析機能によってビジネスの洞察力を深め、業界別のベストプラクティスとサービス指向アーキテクチャ(SOA)の導入によって、ユーザー企業の最適なビジネスプロセス作りをサポートする。この製品の限定出荷は昨年の11月より開始されており、一般出荷は5月を予定しているという。

 SAP Business Suite 7では、スイート全体(「SAP ERP」、「SAP CustomerRelationship Management」、「SAP Supplier Relationship Management」、「SAP Supply Chain Management」、「SAP Product LifecycleManagement」と業界別アプリケーション)に対して150種類以上もの機能拡張がエンハンスメントパッケージを通じて、統一されたリリースサイクルで提供される。ユーザーはエンハンスメントパッケージを利用することで、自社のソリューションをアップグレードすることなく、必要とする機能のみを選択・導入できるため、従来型の長期間にわたる実装やアップグレード作業は不要となる。

 エンハンスメントという言葉は、「素材そのものが持つ性質を生かし改良をしていく」という意味で使われることが多い。今回の最新スイート製品においても、エンハンスメントパッケージによってもともと備えた機能を生かしつつ、適宜、容易に機能拡張ができるようになった。

 SAPジャパンのギャレット・イルグ代表取締役社長は、次のように話す。

 「今日の経済環境に打ち勝っていくには、無駄のない優れた仕事のやり方を取り入れる、コストを低く抑える、商機と勝機をつかむという3つが欠かせない。優れた仕事のやり方を取り入れるには、業務フローを素早く変えていき、グローバルな環境の変化に迅速に対応していく必要がある。今回発表したSAP Business Suite 7は共通のツールセットを持っており、最適なビジネスモデルを構築していくのに役立つ製品だ。ビジネスの変化に対応するには、ITインフラも同じように素早く変えていかなくてはならないが、その変更に多くの時間や多額の金はかけていられない。逆にこれを低コストで素早く進めることができれば、ライバルに打ち勝つ競争力を得ることになる」

sap 「ユーザーは実効性のある無駄取りの方法論を求めている」と語る田村元カスタマーイノベーションセンター本部長

 また、カスタマーイノベーションセンター本部長の田村元氏は、「現在ほど、効率性の追求、柔軟性の確保、洞察力の深化が求められている時はない。ただ、コスト削減や業務の効率化を急ぐあまり、何を削り、どんな無駄やムラを省けば競争力を失わず逆に強化していけるかを見極めることができないでいるケースが非常に多い。また、業務のそれぞれが個人に依存しすぎていて、改革のポイントに気づいているにもかかわらず、具体的なアクションを起こせないでいる企業もかなりある。SAP Business Suite 7はITとビジネスの理想的な連携を実現する。柔軟にITを改変し、業務の効率性を向上させ、経営に関する洞察力を高める。日々、業務を遂行している中で、改革のポイントと変えるべき仕組みをユーザーが発見できるようになっている」と語った。

 不況が深刻化する中、「ピンチをチャンスに」というメッセージはいたるところで聞かれる。しかし具体的にどうすればいいのか。田村氏の発言にはそのきっかけとなる発想が含まれていた。的確に無駄やムラを見つけ、それを排除するとともに業務やビジネスモデルの変化に順応し、業務を遂行しながら改善ポイントを見出す、ということだ。

ユーザーが抱える現実に応えるサービス

「エンハンスメントパッケージの活用は多くのユーザーが待ち望んでいたもの」と語るカスタマーイノベーションセンターの松村浩史部長

 今回の発表での最大の目玉はエンハンスメントパッケージの活用だろう。SAP enhancement packages for SAP ERP単体で、すでにこのサービスは進められており、第三弾までが1000社以上の本稼働顧客に利用され、1800件のダウンロード数という実績もあるという。今回、ERP以外のアプリケーションでもこのサービスを展開することから、各アプリケーションに改善を施したというが、その作業は「技術的にはかなり大変な作業」(田村氏)だったというから、SAPの並々ならぬ意欲がうかがえる。

 カスタマーイノベーションセンターの松村浩史部長は、「当社のERP製品ユーザーの40%弱のお客様が最新バージョン6.0を導入しており、エンハンスメントパッケージの活用も盛んになっている。SAP Business Suite 7については今後1年で50社から100社の導入を目標にしていきたい」と話す。

 ところで大規模なバージョンアップではなく、自社のビジネスに合わせて、ユーザーがパッケージの機能強化が図れるというこの仕組み、どこかSaaSやクラウドでのサービスを連想させる。しかし田村本部長は「SaaSやクラウドとの関連の話の前に、当社製品のユーザーが直面している課題をどう解決していくかが問題の核心だ」とした。確かにネットワーク上でSAP製品と連携するアプリケーションを自由に開発できるインフラが整うよりも、SAPが用意した、最新の機能を備えたアプリケーションを自由に選択しダウンロードできる方がユーザーにとっては現実的で、稼働の面からもメリットが多いかもしれない。大型の基幹製品もSaaSやクラウド上で運用される日も近い、という声もあるが、エンハンスメントパッケージの活用を拡大させるSAPの戦略は、ユーザーが抱える現実に則したものだといえるだろう。

SAP Business Suiteの概要(左)とビジネスを支える3つのポイント

 会見の最後に、ギャレット・イルグ社長の印象的な発言があった。「SaaS、クラウドというとセールスフォースをイメージする人が多い。しかし経営者である私は自社の経営をチェックするとき、(セールスフォースのユーザーがするように)各営業担当者の実績や商談の進捗を観察することから始めたりはしない。まず各セグメントのコストがどのような状況になっているかを見ていく。そして必要であれば人事のシステムに入り、部門や個々人の実績などをコストの面から評価する。こうしたビジネス上の判断を迅速に行えるかどうかが、経営に役立ち企業の競争力を高めるツールの評価基準になると思う」

 この発言は「コストを正確にコントロールし利益に責任をもつ、それこそが経営だ」という意味だと感じられた。SAPが提唱する卓越したビジネスプロセスとは、利益をもたらす最大の武器。現在SaaS型サービスでイメージされるソリューションだけが、企業を支えるITではない、経営を支えるITの主役の座はこちらにある、ということなのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ