欧州の携帯電話会社の事例では、製品に関する問い合わせをコールセンターで受けていたが、携帯電話の機能が年々進化し、コールセンターへのコール数も増加。そこで製品の問い合わせ対応をWeb化し、自然文で記述された質問に対し、FAQやマニュアル、スタートガイドから適切な回答を引用して表示するようにした。この質問文の解析と統合情報の管理にセマンティック技術を用い、それぞれの情報の持つ意味をコンセプチュアルマップ化して表現し管理している。導入後5カ月で400万の質問を処理し、その精度はまだ87%ながらも、1件あたりの処理コストを10ドルから1ドル以下に削減したという。
この事例から武居氏は、「次世代の検索エンジンが利用者の検索ニーズを正確に把握し、検索対象の理解を深めることができれば、従来人手で行われていたサービスの一部が自動化する可能性がある」との見方を示す。
また、韓国のLG電子では、セマンティック検索技術による多元語間技術情報の統合によって、これまで困難とされてきた世界中の研究拠点にある特許技術情報の検索を実現している。
さらに、ドイツの産業用ロボットメーカーKUKA Roboticsでは、自社製品に発生したトラブルに対する対処法や診断方法を提示するためのシステムにセマンティック検索を応用。機器ごとに細かく異なる部品構成や仕様をオントロジで記述し、部品情報とリンク。発生しうるエラーのみを提示することで、調査にかかる時間やコストを削減したという。
「今後の次世代検索は、社内外に散在する異なる情報を意味ベースで統合し、業務アプリケーションと融合することで、構造化された業務知識が生成され、業務プロセスに必要な知識へとひも付けが可能になっていくだろう」(武居氏)
普及の時期について武居氏は、「メタデータの自動付与とオントロジ技術がどこまで成熟するかによるが、2012年ごろから普及期に入る」と見ている。既に海外では具体的な用途に特化したサービスがセマンティック技術によって生まれているが、日本ではやはり言語やローカライゼーションの問題がつきまとう。構造解析や辞書ベースのメタデータ抽出が進んではいるが、日本語特有のあいまいさ、漢字・ひらがな・カタカナの混在が障害になっている。特に、ネットで見られるような特殊な用語、略語などへの適用は今のところ不可能で、オントロジにどこまで盛り込むかが課題だ。もう少し様子を見ることが必要だという。
セマンティック検索を含めた次世代検索技術は、マーケティング用途やサポート分野、テスト工程の短縮化などにも事例が見られ始めている。今後は、攻めの用途企業が積極採用していく可能性も大きい。セマンティックWebなんて夢のまた夢と感じていた数年前を思い起こすと、技術の進歩に改めて驚かされる。
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