日本市場に注力するSalesforce.comの思惑Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年05月31日 08時39分 公開
[松岡功,ITmedia]
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日本が次世代クラウドのリーダー的存在に

 Salesforce.comは現在、日本にデータセンターを設けていないため、米国やシンガポールに設置しているデータセンターを通じて日本国内の企業にサービスを提供している。しかし、社内データを海外に置くことを懸念する日本企業の要望を受け、以前からデータセンターの日本国内設置を検討してきた。そのめどをつけるのが、今回の出張の大きな目的だったようだ。

 データセンターの日本での設置を明らかにした5月11日の記者会見は、ベニオフCEOによる著書『クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語』(ダイヤモンド社発刊)の同日発売を機に開かれた。その質疑応答でベニオフCEOは、日本のクラウドコンピューティング市場の行方についてこう語った。

 「クラウドはこれから、よりコラボレーティブに、多様化するデバイスに対応する形へと進化していく。そうした次世代クラウドに向けて、日本は世界のリーダー的存在になっていくのではないかとみている」

 そして、その理由をこう説明した。

 「日本はネットワーク品質が非常に高く、高速モバイル通信も発展しているからだ。ビジネス文化の観点からも、例えばグループウェアが広く普及したように、コラボレーションを進展させる土壌がある。しかも政府がクラウド化を積極的に進めていることを考え合わせれば、日本はこれから優位性を大いに発揮できる」

 日本法人の設立10周年記念パーティーで宇陀社長がベニオフCEOの言葉として、「日本が間違いなくリーディング市場になる」と語ったのは、こうした理由からだ。Salesforce.comでは次世代クラウドを「Cloud 2」と呼んでいるが、ベニオフCEOは日本がそのスタートアップ市場になるとみているようだ。

 ただ、ベニオフCEOが日本滞在中に、気になるニュースが飛び込んできた。米Microsoftが5月18日、Salesforce.comを特許侵害で連邦地方裁判所に提訴したのだ。Salesforce CRMが9件の特許を侵害しているとし、損害賠償金と一時的および恒久的販売差し止め命令の両方を求めているという。

 Salesforce.comはこの件について公式にコメントしていないが、ベニオフCEOは日本滞在中の5月24、25日に行き来したシンガポールで行われた同社のカンファレンス開催中、記者らの取材に対してMicrosoftを「パテントトロール」と表現し、「こうした件はこれまでと同様、厳格に対処していく」と語ったそうだ。

 業界関係者の間には、今回のMicrosoftの提訴をSalesforce.comに対する威嚇射撃とみる向きもあるが、「存在感を増すSalesforce.comを、Microsoftが本気で気にし始めた証拠」との見方は間違いなさそうだ。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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