クラウドコンピューティングは企業にどう理解されているか

クロス・マーケティングの調査によると、クラウドコンピューティングに対する企業の関心度の高さは、企業規模と比例関係にあることが分かった。現在クラウドサービスを利用している企業は全体の1割に満たなかったが、今後は利用の機運が高まっていく傾向がみられた。

» 2010年07月09日 18時17分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 クロス・マーケティングは7月7日、「クラウドコンピューティングに関する企業の意識調査」の結果を発表した。国内企業のクラウドコンピューティングの導入状況や認識、ITベンダーに対する認知度を調べた。同調査ではクラウドコンピューティングを「インターネットを介して提供されるIT」と定義しており、ASPやSaaS(サービスとしてのソフトウェア)などを含めている。

クラウドコンピューティングへの関心

 クラウドコンピューティングに対する関心の高さは、企業規模と比例関係にあり、規模が大きいほど関心も高いという傾向が分かった。従業員別で関心度を見ると、100人以上の企業では「関心がある」という回答が5割前後に達しているのに対し、100人未満の企業では3割程度にとどまっている。

 年間売上高別では、5000億円以上の企業で「かなり関心がある」という回答が30.1%となり、5000億円未満の企業と差をつけている。10億円以上の企業では、「関心がある」とする回答が過半数前後になっているが、10億円未満の企業では3割強にとどまっている。

 従業員数100人、年間売上高10億円前後を境に、関心度の高さに差が生じている。特に100人未満の小規模企業では、クラウドコンピューティングに対する関心度の低さが明らかになった。

クラウドコンピューティングへの関心(内訳) クラウドコンピューティングへの関心(出典:クロス・マーケティング)

クラウドコンピューティングに対する認識・評価

 クラウドコンピューティングに対する認識・評価を、「魅力」「現実性」「価値」「トレンド」「革新性」という5つの軸で聞いた。

 魅力については「魅力的な仕組みである」とする回答が58.8%となり、大半の企業がクラウドコンピューティングに前向きな印象を持っていることが伺える。また価値の面では、「利用価値がある」という回答が72.1%に上っている。

 現実性の観点では、「実態がない/よく分からない」が51.4%、「定義があいまい」が71.0%となっており、現状ではクラウドコンピューティングの概念が十分に認知されていない様子がうかがえる。

 トレンドの面で目立ったのは、「ベンダーによって言うことが違う」(63.1%)という回答だ。「新しいトレンドとなっている」(63.2%)、「これからのITの主流となっていく」(57.9%)、「IT業界を大きく変えるトレンドである」(51.1%)という回答もあるが、ITベンダーのクラウド戦略は調査対象の企業にはきちんと伝わっていないようだ。

 クラウドコンピューティングの技術や仕組みについて聞いた革新性の項目では、意見が二分した。クロス・マーケティングは「半数近くの企業が(クラウドコンピューティングの)技術や仕組みを冷静に見極めている」と指摘している。

クラウドコンピューティングに対する認識・評価 クラウドコンピューティングに対する認識・評価(出典:クロス・マーケティング)

クラウドコンピューティングへの注力動向

 ITサービスをインターネット経由で利用する「パブリッククラウド」の利用実態を見ると、パブリッククラウドを利用している企業は9.4%であり、全体の1割に満たないことが分かった。現状では利用していないという企業は76.0%に上った。

 現在パブリッククラウドを利用している企業も含めた3割強の企業が、今後の利用を前向きに考えている。その内16.6%の企業が、2010〜2012年に利用計画があると答えている。一方、今後も利用予定がないとする企業は52.1%となり、過半数を超えた。

クラウドコンピューティングへの注力動向 クラウドコンピューティングへの注力動向(出典:クロス・マーケティング)

クラウドサービスの利用分野

 パブリッククラウドを既に利用している企業に、サービスの分野を尋ねた。最も多かったのが「営業支援」の23.4%であり、以下「コミュニケーション(電子メール)」(18.8%)、「財務会計」(17.2%)が続いた。クロス・マーケティングによると、営業支援サービスではSalesforce.comを利用する企業が9割超になり、コミュニケーションサービスではGoogleの「Gmail」や「Google Apps」を利用しているという回答が目立った。

利用サービス分野 利用サービス分野(出典:クロス・マーケティング)

利用検討/予定のサービス分野

 今後パブリッククラウドの利用を検討/予定している企業に、具体的な分野を聞いた。「基幹系サービス」では「財務会計」「人事・給与」、「コミュニケーションサービス」では「電子メール」「グループウェア」を挙げた回答が目立った。クロス・マーケティングが「ユーティリティ系」と定義する「ストレージ」「自社Webサイト」に対するニーズも目立った。

利用検討/予定のサービス分野 利用検討/予定のサービス分野(出典:クロス・マーケティング)

クラウドコンピューティング分野におけるITベンダーの認知度

 クラウドコンピューティング分野のITベンダーの認知度を調べるために、「純粋想起」と「助成想起」という観点で企業に調査をした。純粋想起は「特定分野の商品・サービスについて、手掛かりなしに企業名・ブランド名が思い起こされること」、助成想起は「特定分野の商品・サービスについて、手掛かりとして示された企業名やブランド名から、(企業の)名称が思い起こされること」を指す。

 純粋想起ではIBMが17.1%で1位、Googleが12.6%で2位、富士通が8.3%で3位だった。助成想起のトップ3はGoogle(79.5%)、IBM(79.2%)、Microsoft(77.1%)となった。クロス・マーケティングは「いずれのITベンダーも純粋想起の割合が2割を下回っており、クラウドコンピューティング分野における企業のブランディングは確立されていない」とまとめている。

クラウドコンピューティング分野におけるITベンダーの認知度 クラウドコンピューティング分野におけるITベンダーの認知度(出典:クロス・マーケティング)

 同調査は、国内企業に勤務するIT関連の業務従事者を対象に、6月18〜20日にインターネットで実施したもの。有効回答数は677件。



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