クラウド使用でエネルギー消費は減少するかオルタナティブ・ブロガーの視点

減少するエネルギーはユーザーのものなのか、プロバイダーのものなのか。自前のデータセンターを使った場合とパブリックのクラウドを利用した場合はどうなのか。オルタナティブ・ブロガーの岸本善一氏が、「実にやっかい」な問題をさまざまな角度から考察した。

» 2010年10月28日 15時23分 公開
[岸本善一,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「ヨロズIT善問答」からの転載です。エントリーはこちら。)

 この題目で最近開かれたパネルに参加してきた。そのまとめはここ。演題は簡単に表現されているが、この問題、実は結構やっかいだ。

 まず誰にとってのエネルギー消費なのか。ユーザーなのか、クラウドプロバイダーなのか、それとも全部を総合したものなのか。しかも最近のクラウドはいろいろと種類があってややこしい。SaaS(サービスとしてのソフトウェア)、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)、IaaS(サービスとしてのインフラ)すべて同じに扱ってよいのか。パブリックとプライベートはどうなんだろうか。

 プライベートクラウドには自分のデータセンターで実装される場合とホストされている場合があるだろう。またすべてのアプリケーションで同じことが言えるのかも問題だ。スーパーコンピュータを利用するような数値解析とERPなどのアプリケーションは、エネルギー消費に関して同じ結果を出すのだろうか。もちろんそれら全部を網羅したら、1時間のパネルの議論では済まない。

 この手の話は大体、「何がクラウドで何がクラウドでない」という話に終始して本当の話はちょろっと、というのが大半だ。パネリストは著名な研究者とアナリストだったので話はそれなりに面白かったが、この後いろいろと考えさせられた。それを今回書こうと思う。

 クラウドのメリットとして普通取り上げられるのはその費用の安さだ。コスト面についてはクラウドを使用した方が安いというデータが結構たくさん報告されている。例えばマサチューセッツ大学で試算では、DNA解析用のアプリケーションを走らせる場合、自前でやろうとすると10億円の費用の上に結果が出るまで数年かかるという。しかしアマゾンのAWS(Amazon Web Services)を利用したら、2万円程度の費用で、しかも数時間で結果が出たとのことだ。

 このセッションで論じられたのはこの単なるコストのことではなく、クラウドでない自前のデータセンターを使った場合とパブリックのクラウドを利用した場合、どちらがエネルギー消費が少ないかということだ。定性的に考えると、自前でやる演算をどこかにやらせるわけだから、自分のエネルギー消費は小さくなるはずだ。

 もちろんプロバイダーを経由してクラウドと交信するのだから、大量のデータのやりとりに大量のエネルギーを消費するということなら話は別だが(それに関してアマゾンは、大容量ディスクをFedExでやりとりするというサービスも行っている)。さらにうるさいことを言えば、クラウドまでの距離も問題になる。遠く離れていればそれだけ交信のためにエネルギーが必要だ。そのエネルギー消費はユーザーに課せられるのか、それともプロバイダー持ちなのだろうか。パネルでは、定量的なデータがないので決定的なことは言えないという結論だった。

 エネルギー消費の問題については、いろいろな要素を吟味する必要がある。自前のデータセンターでは、特定のサーバやサーバ群で特定のアプリを実行するだろう。その演算にかかった総電力はたぶん概算できる。始めと終わりの間でどの程度の電力消費があったかは、センサーを突っ込んでモニターすれば大体分かるはずだ。当然OSや紛れ込んでいるかもしれない不必要なユーティリティやアプリによる消費も含む。

 ではクラウドプロバイダーの場合はどうだろうか。技術的には可能かもしれないが、たぶんそんなに簡単には把握できないだろう。まずどのサーバでVirtual Machine(VM)が実行されているかを把握して、そのVMが消費した電力をモニターしなければならない。やってやれないことはないだろうが、もしVMが負荷分散などでサーバ間を移動したら、その移動の際の電力も考慮するのだろうか。これは始めと終わりがはっきりしているアプリの場合だが、ウェブのアプリのようにはっきりした始めと終わりがない場合、外部からの負荷によっても消費電力は変わるだろうから容易ではない。

 SaaSの場合、Multi-tenancy(日本語訳が見つからないのでこのまま。1つのインスタンスで複数のクライアントを同時にサポート)で自前のデータセンターで実行するよりも電力使用は少ないだろう。不可能ではないかもしれないが、1つのクライアントを取り出してその電力消費を見るのは結構困難だ。数値計算ではないので、一定期間の測定が必要だ。しかも外からのアクセスによってSaaSは反応するので、それも考慮しなければならない。IaaSやPaaSの場合はどうだろうか。ここでは詳細に触れないが、限られたリソースでできるだけ多くのタスクをサポートすることができるクラウドは、規模の経済性により効率が良いだろう。しかしどれだけ良いのかは、上で述べたような解析をしてみなければ分からない。今回のパネリストは、たぶんクラウドプロバイダーはその手の測定や解析を行っているだろうが、結果を発表する段階にはないと述べていた。

 エンタープライズと異なり、クラウドプロバイダーは一般的にクラウドというサービスを提供することに特化しており、内部のオーバーヘッドもなく、規模の経済により単位当たりの演算の効率化と経済性を極限に高めていると言える。定量的なデータはクラウドプロバイダーが提供しない限り入手できないが、そのうちに差別化の一環として発表される日が来るかもしれない。

 最後に、地球全体を考えるのであれば、ユーザーとクラウドプロバイダー個々のエネルギー消費だけでなく、全体のエネルギー消費を考える必要がある。ユーザーがある演算をクラウドを使用して行った場合、全体のエネルギー消費はユーザーの消費+プロバイダの消費+ネットワークの消費となる。ネットワークで使用されるエネルギーは概算するのが困難だろう。もしインターネットを介してのアクセスであれば、どのルートを通じて交信しているのか容易には分からない。またルートは動的に変化するだろう。ルートが変わればエネルギー消費量も変化する。考えれば考えるほど分からなくなる。だから結論は、「クラウドを利用するとエネルギー効率が上がりますよ」とざっくり言うのだろう。

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