リコーグループと日本マイクロソフトがこのほどクラウド分野で提携し、中小企業におけるクラウドサービス利用の新形態を発表した。その注目点とは——。
日本マイクロソフトが2月1日、社名を「マイクロソフト」から「日本マイクロソフト」に変更するとともに、本社オフィスを東京の代々木から品川に移した。新本社で記者会見を行った樋口泰行社長は社名変更について、「日本に根ざし、日本の社会に貢献する企業でありたいという思いを込めた」と語った。
さらに樋口社長は、日本マイクロソフトが目指すべき企業像の1つとしてパートナー企業との密な協業推進を挙げ、ここにきて「会社対会社の信頼関係やソリューション連携がかなり深まってきた」と自信をのぞかせた。
そうした動きが直近で見られたのが、1月25日に発表されたリコーグループ(リコーおよびリコージャパンを中心とした国内販売関連会社)とのクラウド分野での提携だ。
内容は、マイクロソフトの企業向けクラウドサービスと、リコーの導入支援サービスなどを組み合わせたソリューションを共同で開発・提供するというもの。その展開において、国内で310カ所の販売拠点、386カ所のサポート拠点を持つリコーグループの業界最大規模の事業拠点網を活用するのがミソだ。
具体的には、マイクロソフトが提供しているExchange OnlineやSharePoint Onlineなどの企業向けクラウドサービスと、国内約9万事業所への導入実績を持つリコーの中小企業向けITサービス「NETBegin BBパック Select」を組み合わせてソリューション化する。
これをリコーグループが全国事業拠点網を通じて、導入・設定から保守、ヘルプデスクまでワンストップで提供することにより、中小企業におけるクラウドサービス導入・利用を促進しようというものだ。
こうした展開を図るため、日本マイクロソフトでは、全国のリコーグループの営業スタッフおよびエンジニア約1万1700人に対し、製品や技術への理解を深めるためのトレーニングを実施するとしている。
リコージャパンの畠中健二社長は発表会見で、両社の提携について「マイクロソフトのクラウドサービスと、リコーグループの事業拠点網を活用したリアルなITサービスを組み合わせることにより、お客様に進化したクラウドサービスの価値を提供できるようになる。この提携はリコーグループにとっても、たいへん重要でエポックメーキングな出来事だ」と力を込めて語った。
リコージャパンでは今回の新たなソリューションについて、今後3年間で全国20ユーザーへの提供を目指すとした。これにより、現在年間で約100億円の売り上げがあるマイクロソフト関連ビジネスを、約200億円に倍増させたいとしている。
日本マイクロソフトによると、マイクロソフトのクラウドサービスと、リコーグループのような広範囲の事業拠点網を活用したITサービスを組み合わせたソリューション展開は、グローバルでも初めてのケースだという。中小企業ユーザーにとっては、クラウドサービス利用の新しい形態ともいえるだろう。
日本マイクロソフトの樋口社長は今回の提携の背景について、「クラウド活用のメリットは本来、企業規模や地域に左右されないはずだが、経営者への情報提供不足、IT管理者不在やスキルの不足、地場でのパートナー不足などによって、地方の中小企業ではクラウド活用が進んでいないのが現状だ」との認識を示し、そうした状況の打開に向けて「全国での販売・サポートに実績を持つリコーグループとの協業を通じて、中小企業のクラウドサービス活用を加速していきたい」と語った。
中小企業向けのクラウドビジネスという観点からみると、今回の両社の提携形態は有効なビジネス推進パターンになるだろう。他の大手ソリューションプロバイダーでも、同様のソリューション提供に向けて準備を進めているようだ。
そこで1つポイントになるのは、マイクロソフトの企業向けクラウドサービスの今後の展開だ。同サービスは現在、Exchange OnlineやSharePoint Onlineのほか、ユニファイドコミュニケーションの「Lync Online」も用意。今年内には、これらにオフィスソフト群「Office Professional Plus」を組み合わせた新たなクラウドサービス「Office 365」を提供する予定だ。
今回、リコーグループが日本マイクロソフトと提携したのもOffice 365の登場をにらんだものといえるが、他の大手ソリューションプロバイダーもOffice 365が中小企業向けクラウドビジネスの起爆剤になるとみており、一気に激戦区になる可能性が高そうだ。
ただ、ビジネスモデルとして本当に成り立つのかどうかは、やってみないと分からない面もある。その意味でも今回の提携のこれからの行方に注目したい。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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