クラウドと向き合うための勘所――討論会から探るユーザーマインド

クラウドに期待される“攻め”のビジネス活用クラウドと向き合うための勘所(2/2 ページ)

» 2011年02月14日 08時30分 公開
[合田雅人,ITmedia]
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クラウドがもたらす変化はさまざま

 業務革新を起こすクラウドサービスの登場について考えた時、朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の別井貴志氏は、まずビジネスモデルの変化について気付くべきだと指摘する。

 「知らない間にクラウドサービスを活用していた、ということが今後のエンタープライズ分野で常識になるもしれない。その時にITサービスのビジネスモデルは、ライセンスモデルからサブスクリプションモデルに変わるわけですね。アップデートするたびに顧客から料金を徴収することなどできなくなります」

 今後クラウドを活用して起業する、あるいは、新しいビジネスを展開するといった時に、ビジネスモデルの変化に常に注意すべきである。それに気付いてはいても、なかなか収益化できず、沈んでいくようなサービスも出てくるだろう。

 また、日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー兼日経コンピュータ 編集プロデューサーの星野友彦氏はクラウドがもたらす起業家の変質について次のように話す。

 「先日、米EvernoteのCEO(フィル・リービン氏)と話をしましたが、起業するコストもクラウドによって大幅に変化しつつあるといいます。これまでの起業家はベンチャーキャピタルから資金を借りて、その半分をサーバの購入費用に使っていたと言います。それが、クラウドのおかげで5000ドルもあれば十分なリソースを獲得できると。クラウドはビジネスのスタートアップに大きな影響を与えています。クラウドを活用すれば、小規模な事業者でも優れた製品やサービスを開発できる可能性が高まり、グローバル市場で受け入れられる可能性が出てくる。クラウドは販路獲得にも大いに役立つインフラを提供しています」

 クラウドがもたらす変化は、ビジネスシーンのいたるところに現れているようだ。それでは、今後どのようなクラウドビジネスが出現するのだろうか。

他社と共有するサービスも

 期待されるクラウドサービスとして、アスキー・メディアワークスの大谷氏は次のように語る。

 「既存のさまざまなサービスが連携していくでしょう。例えばスケジュール管理のクラウドサービスが別のベンダーが提供するCRMのサービスと連携するといった具合です。顧客管理におけるスケジューリング作業で、使いやすいスケジュール管理サービスを利用したいというニーズが必ず出てくるはずです。さまざまサービスを横断的に、そして、一括して使えるサービスが期待されます」

 既に財務系システムまでもクラウドサービスを利用しようとするユーザー企業が現れ始めていることを考えれば、そうしたサービスと人事業務、生産管理業務などのクラウドサービスが連携するようになるのは時間の問題かもしれない。

 連携という意味では、「業界クラウド」のようなものが出現する日も近いのではないかと日経BP社の星野氏は指摘する。

 「市場競争とは関係のない分野では、ライバル企業同士がクラウドサービスで業務リソースを共有し合うようなことがあり得るでしょう。例えば、製薬業界や流通業界でそうした動きが始まる可能性が高いと考えています」

 業界クラウドという考え方を受けて、アイティメディアの浅井氏はBtoB分野でのクラウド活用についての可能性を指摘する。

 「EDSといった仕組みでこれまでデータのやりとりをしていた企業同士が、クラウドを使ってデータ交換をしましょうという発想が今後大いに広がるのではないか。複雑なビジネス上の制約をクリアしていけば、グローバル展開をする上でこれほど強い味方はないでしょう。海外に進出した企業が一番に困っているのは、日本企業同士、あるいは、海外の企業とどのように情報を連携するかという点です。莫大なコストをかけて自前のネットワークを作るなどということはもはや考えられないでしょう」

 また、インプレスビジネスメディア ITLeaders 編集長 田口潤氏はクラウドを利用する企業に対するサービスが今後さまざまに発展する可能性を指摘する。

 「クラウドサービスに預けているソースコードやデータを別に保管しておき、事業者が倒産しても、データを迅速に復旧してくれるようなサービスなどが海外では既に出現しています。ユーザーの不安を払しょくするという意味では、なかなか面白いサービスですね」

 クラウドならではのサービス、あるいは、これまでのサービスを低いコストで補完するサービスなど、いろいろな角度から新しいクラウドサービスが生まれている。コスト削減は当たり前、プラスアルファにどんなメリットがあるのか、という視点がクラウドを考える上で必要になっているようだ。

討論会に参加した別井氏、大谷氏、舘野氏、浅井氏、田口氏、星野氏(左から)
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