企業のアジア進出が加速する中、国際物流の拠点として関心が高まっている沖縄。その沖縄が今、IT産業においても新たな転換期を迎えている。
現在、沖縄において観光業に次ぐ産業の柱として大きな期待を担っているのがIT産業だ。2010年3月、沖縄県は、将来の沖縄のあるべき姿を描くとともに、その実現に向けた取り組みの方向性、県民や行政の役割などを明らかにする基本構想「沖縄21世紀ビジョン」を発表したが、この中でもITは雇用創出や地域ビジネス活性化などに向けた新たなリーディング産業として位置付けられている。
政府も沖縄のIT産業育成に積極的な姿勢を見せている。内閣府が策定した「沖縄振興特別措置法」によって、沖縄へのIT企業誘致に伴う資金援助や進出企業の課税免除など、情報通信産業の振興策が明確に打ち出されている。その結果、2011年1月までに216社のIT企業が沖縄に進出し、2万人以上の新規雇用を生み出している(図1)。
その中で、最も大きな割合を占める分野がコールセンター事業である。日本IBM、トランスコスモス、CSKなどの大手をはじめ、65社が進出し、1万5000人以上の雇用が生まれている。例えば、トランスコスモスの子会社で、沖縄市に本社を構えるトランスコスモス シー・アール・エム沖縄では、本社および県内の4つのオペレーション拠点で約3000人の社員を抱える。コールセンターでは、主にインバウンド(受信)業務を30社程度の顧客から委託されているという。
雇用創出という点では、大規模に人材を採用できるコールセンター事業が今後も主軸になっていくことは間違いない。しかし一方で、沖縄のIT産業自体の高度化、高付加価値化を図る上では、ソフトウェア開発や情報サービスといった産業の強化が不可欠である。そうした発想を基に、沖縄第3の都市・うるま市の沿岸地域に建設されたのが「沖縄IT津梁パーク」である。
IT津梁パークでは、沖縄の新しいIT産業の中核として、ソフトウェア開発、テストセンター、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)センター、データセンターといったIT機能の集積拠点になることを目指すほか、沖縄という地の利を生かして、IT人材の育成や交流などの面で日本とアジア各国とのブリッジ機能を担っていく。
IT津梁パークの中核会社として、施設の運営や県外への広報、営業活動などを手掛ける沖縄ソフトウェアセンターの南郷辰洋社長は「これまでは沖縄のソフトウェア事業における新規雇用は限られていた。また、仮に沖縄にソフトウェア開発の依頼があっても、地元のIT企業の規模が小さいため、プロジェクトを回せないなどのジレンマがあった。IT津梁パークはこうした課題を解決するきっかけになる」と力を込める。
なお、同社は、国や県、県内外企業の支援の下、2008年10月に発足した。株主にはIT企業に加えて、沖縄電力や琉球銀行、沖縄振興開発金融公庫、沖縄県産業振興公社などIT関連以外の企業も名を連ねており、まさに「オール沖縄」で事業拡大に注力している。
開設にあたりIT津梁パークは8000人の新規雇用創出を目標に掲げたが、既にトランスコスモスが組み込み開発・検証センター拠点である「BPO沖縄テクニカルセンター」を立ち上げたり、通販大手のセシールが2012年5月を目処にコンタクトセンターを設立したりするなど、早くも雇用創出に向けて活発な動きが見られる。
また、ソフトウェア開発においても成果が現れている。先述したように、これまでは沖縄のIT企業が個別に案件を受託していたことによって、リソースやスキル不足などの問題からうまくビジネスに結び付けられない例が少なくなかった。そこで、IT津梁パークを開発拠点に、受注業務を沖縄ソフトウェアセンターの参画企業(コア会社と協力会社)で共同開発を実施。協力会社は開発プロジェクトに人員を派遣、あるいはプロジェクトから業務を受託することによって、共同開発体制を構築した。
「経験豊富な沖縄ソフトウェアセンターの社員がプロジェクトマネジャー(PM)となることで開発プロジェクトを円滑に回すことができるようになるほか、協力会社ごとに専門化して、強みとなる開発分野をつくることで、全体のレベルの底上げが可能になる」と南郷氏は意義を説明する。
今後の注力事業としてIT津梁パークが取り組んでいるのが、組み込み分野におけるテスティングである。具体的な内容としては、苦情やクレームの分析によってユーザー行動を可視化し、ユーザー視点から製品品質を検証するサービスや、製品仕様のモデリングと自動化によってソフトウェア開発および検証を高度化するサービス、それを支援する先端ツールなどを提供する。
さらには、アンドロイドテスティング協議会(ATC)が中心となり、米Googleの携帯端末向けOS「Android」を搭載した製品の改良点をユーザーの問い合わせなどから分析、検証するテスティングセンターをIT津梁パーク内に設立することを目指している。これが実現できれば、沖縄のIT産業の価値を県外、さらには世界へ強くアピールすることが可能だと南郷氏は意気込んだ。
昨今、新たな巨大マーケットとしてアジアが脚光を浴びる中、日本にありながらも地理的に東アジア地域の中心となり得る沖縄は、既にアジアを中心とする海外ビジネスの物流のハブとして機能している。今後は、ITの重要拠点として国内外で存在感を増していくという沖縄の挑戦はまだ始まったばかりだ。
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