GoogleとHPの新たな動きにみるICT産業の構造変化Weekly Memo

GoogleがMotorola Mobilityを買収、HPがPC事業の分離を検討――先週相次いで発表されたこれらの新たな動きは、まさにICT産業の構造変化を象徴しているといえそうだ。

» 2011年08月22日 07時45分 公開
[松岡功,ITmedia]

スマートフォンの台頭が引き金になった2つの発表

 先週、2つの発表が世界のICT産業に大きな衝撃を与えた。1つは米Googleによる米Motorola Mobilityの買収、もう1つは米Hewlett-Packard(HP)によるPC事業の分離検討である。

 まず8月15日(米国時間)、Googleが通信機器大手のMotorola Mobilityを125億ドル(約9600億円)で買収すると発表した。Googleによる企業買収では最大の規模となる。携帯電話用OS「Android」のシェア拡大に努めるGoogleが、老舗の携帯電話メーカーを傘下に収め、ライバルの米Appleなどとの戦いで優位に立とうとする戦略は明らかだ。

 特にGoogleがMotorola Mobility買収を決断した背景には、スマートフォン特許の争奪戦が激しさを増していることがある。GoogleはAndroidでシェアを拡大しているが、歴史の浅い同社はライバルに比べて保有する特許が少ない。そこで、豊富な特許を持つ老舗メーカーを買収し、知的財産権でも競争力を強化する形をとった。

 一方、8月18日(米国時間)には、HPがPC事業の分離を検討すると発表した。同社は世界のPC市場で約2割のシェアを握る最大手だが、新興国メーカーとの競争激化やタブレット型端末、スマートフォンの台頭で収益性が低下しているため、事業の抜本的な見直しが必要と判断した。

 分離の形態は未定だが、会社分割による別会社化などを軸に検討を進める構え。ただ、売却や他社との事業統合も考えられ、そうなれば大規模な業界再編につながる可能性もある。今春には韓国のサムスン電子による買収話が一時浮上した経緯もある。だが、HPのPC事業は1兆円規模とみられる。事業環境も厳しく投資負担も重いことから、買い手が現れるかどうかは不透明だ。

 この2つのビッグニュースの詳細については、すでに多くの報道がなされているので、関連記事などを参照いただくとして、ここではこの2つの発表にみるICT産業の構造変化を考察してみたい。

 その最大のポイントは、スマートフォンの台頭である。

PCからスマートフォンへネット端末の主役交代

 象徴的なのは、スマートフォンがネット端末として、PCに取って代わる流れが鮮明になってきたことである。その兆候は、昨年後半からみられた。

 米調査会社のIDCによると、昨年10〜12月期にはスマートフォンの世界出荷台数がPCを上回った。さらに、今年のPCの世界出荷台数は伸び悩んで約3億6000万台となる見込みに対し、スマートフォンは今年初めて年間ベースでPCを抜き、前年比55%増の約4億7000万台となる見通しだ。スマートフォンは、2015年には約10億台に達するとみられており、その頃には市場規模としておそらく倍の差がついているのではないかと予想される。

 こうした状況に、PCメーカー関係者からは「PCは、さまざまなデジタル機器を連携させるためのハブとして、引き続き重要な役割を担っていく」との声も聞こえてくるが、“主役交代”の流れが変わることはないだろう。今回のHPによるPC事業の分離検討は、こうした主役交代を印象づけた形となった。

 ただ、興味深いのは、ネット端末としての主役はPCからスマートフォンに代わるものの、産業構造としてはスマートフォンがPCに似てきたように見受けられることだ。その象徴が、GoogleのAndroid戦略である。Androidの登場によって、端末開発の軸は携帯電話会社でなくメーカーに移った。GoogleはAndroidを無償提供することによって、日本や韓国、台湾などの端末メーカーと連携し、シェア拡大を図ってきた。

 Googleが今回、Motorola Mobilityを買収したことで、そうしたAndroidエコシステムに支障をきたすのではないかとの見方もあるが、Googleはむしろライバルとの知財競争力強化がAndroidエコシステムにも貢献すると説明している。こうしたエコシステムへの配慮は、PCの文化とも共通する。

 ただ、Googleにとっては製造部門を自ら抱えることで、これまでのような高い利益率を維持できなく恐れはある。それでも同社が今回の買収を決めたのは、スマートフォンをはじめとした携帯端末市場の構造が大きく変わってきたことをにらんだものとみられる。

 この分野では、かつてMotorolaと世界市場を二分したフィンランドのNokiaがスマートフォン事業で出遅れ、今年2月に米Microsoftと提携した。これを機に、今後はメーカーでなく、GoogleやApple、Microsoftといった情報の配信基盤やOSを握る企業が市場をリードするとみられるようになってきた。

 Appleは垂直統合型の事業モデルで大成功を収めているが、同社の事業モデルは基本的にPC時代から変わっていない。そう考えると、Microsoftが主導してきたPC時代から、スマートフォン時代になってGoogleが気を吐いているといった構図になりつつある。すでにスマートフォンの産業構造の裾野はかなり広がりつつあるが、そのポテンシャルからみて今後さらにPCを上回る規模になっていくだろう。

 先週の2つのビッグニュースは、こうした流れを考察する、まさにエポックメーキングな出来事だった。

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