ビッグデータ時代は「技術」「データ」「スキル」で武装せよ――ガートナー・堀内氏Oracle Business Analytics Summit Report

ビッグデータを経営に生かすことが叫ばれる昨今、「何をどうすれば……」と悩む企業は少なくない。ビジネスアナリティクスをテーマにした日本オラクルのカンファレンスではガートナーの堀内秀明氏が、ビッグデータ活用へのアプローチ方法を解説した。

» 2012年09月18日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイスプレジデント 堀内秀明氏

 ビッグデータを分析すれば次のビジネスのヒントが得られる――ここ数年、ビッグデータと呼ばれる膨大な数・種類のデータの活用に向けたソリューションを企業に提案するITベンダーの動きが活発だ。ビッグデータが経営に役立つというメッセージだが、そもそも「ビッグデータとは何か」「何をどうすれば良いのか」と頭を抱える企業は多い。日本オラクルが9月12日に開催した「Oracle Business Analytics Summit 2012」の基調講演ではガートナー ジャパン マネージング バイスプレジデントの堀内秀明氏が、ビッグデータ活用に向けたアプローチについて解説した。

 ビッグデータとは何か。Oracleでは「従来のコンピューティング能力では処理し得なかった規模のデータ」と定義する。ガートナーでの定義は「コスト効果が高く革新的な情報処理プロセスを必要とする大量・高速・多様な情報資産」という。つまりは、少ないコストで分析する価値のあるデータを見つけ出し、有意な情報として使っていくことであり、単に膨大なデータを単に分析処理すれば済むということでは無い。

 また、データを価値ある情報とするには、それを必要とするユーザーの立場が関係する。経営層なのか、マーケティング担当者なのか、製品の品質管理者なのか、欲する情報や求める価値、そのためのデータの種類も量もユーザーの立場で異なってくる。

 ガートナーは、Fortune 500企業の実に85%が2015年までにビッグデータの活用を失敗するとの見解を示している。堀内氏は、「逆に言えば15%の企業はビッグデータ活用でビジネスを成功させる可能性がある。成功の15%に入るためにどうすべきかを考えることが重要」と述べ、データ管理や活用の技術、分析するデータの獲得、データを価値に変えるスキルの3つの視点で解説している。

 まずデータ管理や活用の技術の変遷に着目すると、メインフレームよる業務システムが構築され、UNIXやリレーショナルデータベースの導入、ダウンサイジングという流れを経た。ここでデータ活用の仕組みが2つに分かれる。1つは業務システムに格納された構造化データを、データウェアハウスやビジネスインテリジェンスツールで活用するというもの。もう1つはインターネット上にあるテキストや画像といった非構造化データの中から、ユーザーの求めるデータを検索などで探して活用するものだ。

 活用する上での技術的な課題と解決策も登場した。前者ではデータを迅速に処理したい場合に、リレーショナルデータベースシステムの構造がボトルネックとなって高速処理ができない。これを解決するために列ストア式のデータベース技術やインメモリ技術が開発された。後者では企業の外部にある膨大な量のデータが対象となるため、それを処理できる技術が新たに必要とされた。その解決策がnoSQLやHadoop/MapReduceという。

 堀内氏はモバイルデバイスの普及も挙げた。いつでも、どこでもほしい情報を入手できるというスマートフォンやタブレット端末のメリットが、企業の情報活用ニーズにも合致するためだ。Gartnerでは2014年までに情報分析の33%がモバイルデバイスで行われると予測している。

 こうした技術の現状はどうか。ガートナーでは成熟度のサイクルでみた独自の分析結果を「ハイプ・サイクル」という形で毎年公開しており、その2011年版によれば、ビジネスインテリジェンスやWeb分析などの技術は「安定期」にある。インメモリやHadoop/MapReduce、モバイルデバイスでの分析は、その存在が市場に認知される「過度なピーク期」、ビッグデータ処理技術は「黎明期」にある。技術をユーザーが本格的に採用するようになるまでは、ビジネスインテリジェンスなどは2年未満、インメモリやHadoop/MapReduceなどは2〜5年ほど、ビッグデータ処理技術では5〜10年ほどかかるとみる。

 現状ではビッグデータ処理技術を優先するより、まずはどのようなデータが必要とされてどのように集めるか、その準備に注力すべきというのが堀内氏の見解である。

 次に分析するデータをどう獲得するか。ガートナーが2011年11月に実施したビッグデータ活用に関する調査から、ユーザー企業の大半がまずは基幹業務システムのデータ活用を検討していることが分かった。二番手はWebのアクセスログだった。またビッグデータの分析で期待する効果の最多が「顧客関係の強化による収益性向上」である。これらの傾向をみるに堀内氏は、「基幹業務システムのデータがどれだけ顧客関係の強化に貢献するかは不透明な部分が多い。使うデータとその活用目的との間にギャップがある」と指摘する。

 顧客関係の強化という目的でどのようなデータに着目するかについて堀内氏は、(1)基幹業務システムのデータ、(2)コールセンターなどの顧客接点で得られるデータ、(3)ブログやSNSで得られるデータ――を挙げる。(1)はビジネスインテリジェンスを使っての活用がしやすいが、(2)ではデータの種類や量が増えるので整理する、そのための方針なども求められる。(3)はさらにデータの種類や量が爆発的に増える。膨大なデータから価値ある情報につながるデータを見つけ出さなければならない。つまりは、データを価値に変えるスキルであり、これが企業にとって最も重要かつ、苦手な部分だという

 データを価値あるものに変えるにはどうすべきか。ガートナーの調査によれば、2014年までにビジネスインテリジェンスの取り組みを成功させるうえで、ユーザー企業の大半が自社の経営陣やIT部門、業務ユーザー部門が中心になると考えていることと分かった。一方、関与しないと考えるのは外部コンサルタントやソフトウェアベンダー、システムインテグレーターとの回答が目立った。ユーザー企業は、データを価値に変えるようとする取り組みを自力で進められると考える傾向にあるようだ。だが堀内氏は、「考え方を柔軟にすべきだ」と提言する。

 堀内氏によれば、ビジネスインテリジェンスでビジネスに対する効果を高めていくには、「実績確認(レポーティング)」「将来予測(モデリング)」「資源の最適化(シミュレーション)」「事実の発見(マイニング)」の4つの段階があり、現状では大多数がレポーティングの段階にとどまる。マイニングの段階では高度なスキルが要求されるだけに、まずは社内のリソースでレポーティングの仕組みを回すことに注力しているのが現状という。

 マイニングのような高度な情報活用で注目されるのが、「データサイエンティスト」と呼ばれる人材。データの中から関係性やパターンといったヒントを発見し、分析の仕組みを構築する。さらに、業務部門などビジネスに関係する部門や人員とのコミュニケーションを通じて、ビジネス上の課題や解決へのヒントを、分析をもとに提示する役割を担う。

 堀内氏によると、海外ではデータサイエンティストによる本格的な情報活用の取り組みを始めている企業が少なくない。国内では大阪ガスの情報通信部 ビジネスアナリシスセンターがこうした機能を担っている数少ないケースだと紹介した。ビジネスアナリシスセンターは社内や関連会社向けに年間100件近いデータ分析によるソリューションを提供している。

 「同社に話を聞くと、関連部署とのコミュニケーションやデータ分析の準備は自社で、大量のデータを分析する仕組みなどの部分は外部の専門機関に委託しているとのことで、社内リソースだけでは困難なら外部のベンダーやコンサルタントを積極的に活用していくべきだろう」(堀内氏)

 最後に堀内氏は、データ分析と情報活用におけるアドバイスとして、(1)既存のデータをどう使うかではなくニーズに基づいて検討すること、(2)ニーズに対してギャップが無いように情報の質・スピード・多様性・一貫性を考慮すること、(3)タイムリーな情報提供ができる技術であること、(4)新技術の利用や高度なデータ分析を実施するスキルが無いなら、短期的には外部を活用することも念頭におくこと――を挙げている。

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