iPhoneが牽引したスマートフォン、iPadなどのタブレットPCの世界も大きな進展を見せた。今日のスマートフォンブームを作ったiPhoneは年々進化を続け、2012年9月21日には、6代目(日本では5代目)となるiPhone 5が発売された。iPhone 5はこれまでの3.5インチの画面サイズを大型化して4インチモデルとなり、旧モデルのiPhone 4Sの2倍の処理能力を持つ「Apple A6プロセッサ」を搭載した最新機種だ。
iPhone 5の見どころは多いが、注目すべきはHSPAに代わる高速通信規格「LTE(Long Term Evolution)を採用したことだ。LTEに関しては、NTTドコモが日本で初めて2010年12月に「Xi(クロッシー)」というブランド名でサービスを開始しているが、iPhoneを扱うソフトバンクとKDDI(au)はLTEの整備が遅れていた。
当初、両社のLTEのサービス開始は2012年末と見られていたが、iPhone 5の発売日に合わせて急遽サービスを開始した。これによって、iPhone 5では発売初日からLTEが利用できるようになった。ちなみに、ソフトバンクでは2012年2月24日にソフトバンクがTDD-LTE方式(AXGP方式)のLTEサービスを「SoftBank 4G」として開始していたが、iPhoneはTDD-LTE方式に対応しない(iPhone以外のスマートフォン向けに利用される)。
LTEの通信速度はカテゴリによって異なるが、各携帯電話会社が提供するFDDーLTEサービスは下り75Mbps(または37.5Mbps)、上り25Mbpsのものだ。まだ始まったばかりのサービスであり、NTTドコモのXiと同様にサービスエリアは限られているが、LTE対応エリアでのデータ転送速度は極めて高速だ。従来のソフトバンク3G回線で下りは最大14.4Mbps、auでは3.1Mbpsだったので、その差ははっきりと体感できるものだ。
また、ソフトバンクは10月1日にイー・アクセスを株式交換により完全子会社化し、イー・アクセスが展開する1.7GHz帯のLTEをソフトバンクのiPhone 5で使えるようにする計画に言及した。このように、iPhone 5の登場が、一気に国内のLTEサービスを加速化していることは間違いないだろう。
このように、iPhoneやiPad、そして、NTTドコモ、au、ソフトバンクのスマートフォンやタブレット端末などが続々とLTEに対応し、そのパフォーマンスはCPUやメモリ性能の向上とともに、一昔前のノートPCと決して引けを取らないものに成長している。また、NTTドコモではLTE対応モバイルルータも販売されている。
なお、LTEは規格上、下り最大325.1Mbpsの通信速度を実現できる。とはいえ、新たにLTEサービスを開始したばかりのソフトバンクとKDDIが月間転送量を7Gバイトまでに規制していることからも分かるとおり、現行のLTEの通信速度を上回るサービスを開始したとしても、通信事業者のコアネットワークの容量が追いつかない状況だ。今後は、事業者の基盤容量の拡大が焦点となり、その上でLTEの高速化とLTEネットワーク上の音声サービスの進展が待たれる。インフラの整備が進めば、100Mbps超のサービスの実現もそう遠くない未来に実現するだろう。
以上、本連載ではモバイルワークの歴史を振り返ってきた。モバイルの黎明期では想像もつかなかったような世界が展開し、次第にモバイル環境こそが人々にとってメインのインフラとなりつつある。まさに、PDAの黎明期からW-ZERO3、EM・ONEのような端末が登場したころ、「ユビキタス」と称していた夢のポストモバイルの未来が今、現実のものとして進行しているのだ。
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