企業のモバイル活用は道半ば、本格利用の分岐点はどこに?

IDC Japanの調査によれば、スマートデバイス向けに業務アプリの提供計画があると回答した企業は、全体の4分の1にも満たないことが分かった。モバイル活用の現状と普及の見通しを、シニアマーケットアナリストの富永裕子氏に聞いた。

» 2013年05月15日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 企業でのスマートフォンやタブレット端末の導入が注目を集めるようになって久しい。これまでは導入自体が話題になったが、最近ではその活用に関心が高まりつつある。企業のモバイル活用は本格的なフェーズに入ったのだろうか――。

 IDC Japanが3月に発表した「国内企業向けスマートモバイルアプリケーションおよびその開発市場の分析結果」によると、企業が導入しているデバイスは、PC/モバイルデータ通信機器が68.8%、スマートフォン/タブレット端末が39.0%、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)が37.2%、業務用ハンディターミナルが24.2%。スマートフォン/タブレット端末がフィーチャーフォンを上回る導入状況だった。

 その一方でユーザー企業において、2013〜2016年にスマートフォンやタブレット端末向けに業務アプリケーションの提供計画があると回答した企業は、23.3%にとどまった。

IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ シニアマーケットアナリスト 富永裕子氏

 調査を担当したソフトウェア&セキュリティ シニアマーケットアナリストの富永裕子氏によると、同社が長年実施しているビジネスモビリティに関する調査では、PC/モバイルデータ通信機器の利用が中心となっており、スマートフォン/タブレット端末の利用は増えていない。

 この点について富永氏は、「PC/モバイルデータ通信機器からスマートフォン/タブレット端末に置き換えるというよりも、フィーチャーフォンからスマートフォン/タブレット端末に置き換える企業が多い。PCなどからの移行を視野に入れてはいるが、現状ではスマートフォン/タブレット端末を連絡手段として利用するケースが中心ではないか」と分析している。

 モバイルの導入や活用に注目しつつも、「情報システム部門では仮想化やクラウドなど、モバイルを活用するためにも必要となる基盤の整備を優先しているようだ」(富永氏)という。

情報入力を伴う業務が分かれ目に

 スマートフォン/タブレット端末の企業活用には、モバイルに対応した業務アプリケーションの利用拡大が鍵を握るとみられる。

 スマートフォンやタブレット端末向けに業務アプリケーションの提供計画があると回答した23.3%の企業では、2013年中に導入を検討するアプリケーションとして、主に、「営業支援/顧客関係管理」「メール/スケジュール管理」「ドキュメント/カタログ管理」「ビジネスインテリジェンス/アナリティクス」といった情報系システムを挙げた。

 特にビジネスインテリジェンス/アナリティクスは、企業のモバイル導入が話題を集めた時期に、経営層が財務情報などをリアルタイムに閲覧するといった用途が目立った。富永氏によれば、現在では経営層よりも、現場サイドに近いマネージャー層がビジネス状況などの情報をモバイルデバイスでリアルタイムに活用するケースが増えている。モバイルデバイスでも操作しやすいビジネスインテリジェンス/アナリティクスのツールの普及が、これを後押ししているとのことだ。

 企業におけるスマートフォン/タブレット端末の活用の現状は、情報の閲覧が中心であり、当初のようなメールやスケジュールに加えて、より多種多様な情報をリアルタイムに利用する動きが進んでいる。さらに活用が広がるためのポイントはどこにあるのか。富永氏は「承認/経費清算」に注目しているという。

 富永氏によると、承認/経費清算などのワークフローに関わる業務アプリケーションのモバイル利用は、社員のワークスタイルや企業のセキュリティポリシーも関係する。「例えば、在宅勤務時にこうした情報をモバイルデバイスで安全にやりとりするための環境整備など、クリアすべき点は多い」という。

 さらには、個人所有の端末を業務に利用する「BYOD」への関心も高まり始めた。こうした環境の変化もあって、業務情報の入力を伴うアプリケーションのモバイル利用について企業は、慎重にならざるを得ない状況にあるといえそうだ。

マルチプラットフォームへの対応も

 上述の業務アプリケーションの提供計画があると回答した企業のうち、2014年以降に導入を検討するアプリケーションとして生産管理や在庫管理などを挙げる回答が目立つ。2013年中の導入を検討する企業は概ね7〜8%だが、2014年以降でみると約17%という高い割合を示した。

「この分野ではハンディターミナルが広く利用されてきたが、アプリケーションのWeb化などによって、スマートフォンやタブレット端末でも利用できるようにする動きが出始めている」

 また、業務アプリケーションを稼働させるためのOSとして、スマートフォンではAndroid、タブレット端末ではiOSに注目している企業の傾向も分かった。

業務アプリケーションの提供計画における稼働プラットフォーム(出典:IDC Japan、同社資料をもとに作成)
OS スマートフォン タブレット端末
iOS 62.1% 68.8%
Android 73.7% 56.3%
Windows 24.2% 38.5%

 企業のモバイル導入は長らくiOSデバイス(iPhone/iPad)が中心だったが、富永氏によれば、コンシューマー市場でのAndroidのシェアの高まりを受けて、Android対応を検討する企業が増えている。「既にiOSに対応させた企業を中心に、BYODなど今後の変化に備えてマルチプラットフォーム化の必要性を感じているようだ」という。

 企業でのモバイル活用は今なお情報の閲覧が主体だが、今後の頻繁な情報入力を伴う業務での活用を視野に、プラットフォームを含めての対応の準備が進みつつあるようだ。富永氏は、「今後もモバイル活用は着実に進むと予想されるが、そのためには、ベンダーがマルチプラットフォーム対応製品をさらに拡充させるなどの取り組みがますます重要になる」と指摘する。

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