「TSUBAME 2.5」はエクサ級スパコンへの重要ステップ、東工大が計画説明

東京工業大学は、今回のTSUBAMEのバージョンアップが2015〜16年に導入予定の「TSUBAME 3.0」やその後のエクサスケールシステムへの試金石になると説明する。

» 2013年07月29日 19時10分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 東京工業大学学術国際情報センターは7月29日、このほど発表したスーパーコンピュータシステム「TSUBAME」のバージョンアップ(通称「TSUBAME 2.5」)計画についてメディア向けに説明した。2015度の導入を予定する「TSUBAME 3.0」や2019年以降に実現を目指すエクサスケールシステムへの重要なステップに位置付けているとした。

 今回のバージョンアップは、現行機の「TSUBAME 2.0」に対する需要過多の早急な解消と、TSUBAME 3.0の実現に向けた技術開発を推進するのが狙い。計画ではサーバやプロセッサなどは現行のままGPUをNVIDIA Tesla M2050から同K20Xに刷新する。これによって理論演算性能は単精度で現行機比3.6倍の約17.1ぺタフロップス、倍精度で同2.4倍の5.76ペタプロップスに向上する。

TSUBAME 2.0から2.5へのバージョンアップの内容

 会見した松岡聡教授によると、TSUBAME 2.0の2012年度の繁忙期(11〜2月)におけるノード稼働率は99%に達し、特に緊急性の高い防災シミュレーションや産業分野向けアプリケーションの利用がほぼ不可能になる恐れが生じた。また青木尊之教授によれば、産業利用を目的とした民間企業などに対する計算資源の提供では2012年度に無償のトライアルの利用率が15.93%、学外利用全体では27.66%に達した。「学術と産業の両分野から需要はうれしい悲鳴といえるが、機会損失の解消とTSUBAME 3.0に向けた開発を急がないといけない」(松岡教授)という。

TSUBAME 2.0による高精度シミュレーションの例。左は東京中心部10キロ四方の1メートルメッシュによる気流の動き。右は民間企業が自社システムとTSUBAMEでシミュレーションした様子

 TSUBAME 2.0の運用期間は2年ほど残っているが、TSUBAME 3.0向けの開発が一部で遅れているため、急遽バージョンアップが実施されることになった。TSUBAME 2.5の導入はこれまでと同様に、ハードウェア面で米Hewlett-PackardとNVIDIA、システムインテグレーションでNECと協力する。

 松岡教授がTSUBAME 2.5で特に強調するのが、単精度での演算性能と省電力性の2点。企業のクラウド基盤やデータセンターにおける性能向上要求は年率30〜40%だが、スーパーコンピュータなどのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)では同100%と2倍以上の高いという。「データが8バイトの倍精度に比べて単精度は4バイトと半分だが、2倍の計算性能を持つので並列による高速計算では有利。TSUBAME 2.5は単精度で『京』の11.4ペタフロップスを越える」とし、単精度として世界でもトップクラスの計算能力を確保することで、需要過多の状況に対処する方針だ。

 またGPUはソケットあたりの性能がCPUより5〜6倍ほど高いとし、TSUBAME 2.0は2010年と2011年にスーパーコンピュータの電力性能ランキング(Green 500)でトップ5に入った。TSUBAME 2.5ではより省電力性に優れたGPUに換装することで電力効率の向上を図る。また、東工大では「TSUBAME-KFC」という油浸冷却と空冷を組み合わせた冷却技術の開発も進め、TSUBAME 3.0への適用を目指すとしている。

省電力性向上のための冷却技術の開発
大谷清 東工大理事・副学長

 このほかTSUBAME 3.0の実現に向けて、TSUBAME 2.5ではさらなるビッグデータへの対応やメニーコアプログラミング技術、エクサスケールシステム時代に備えた耐障害性の向上にも取り組んでいくという。

 会見した大谷清 理事・副学長は「今後もTSUBAMEが『京』と並ぶわが国を代表するHPCインフラであり続けるよう期待している」とコメントした。

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