市況予測のクラウドサービス? 三井情報がSAP HANAで挑む新境地SAPPHIRE NOW 2014 Orlando Report

フロリダ州オーランドで開催中の「SAPPHIRE NOW 2014 Orlando」で三井情報は、SAP HANAを活用した市況予測を汎用的なSaaSとして提供していくことを明らかにした。SAPジャパンは国内のクラウドデータセンター開設を発表したばかりだが、その本番稼働一番乗りを視野に入れている。

» 2014年06月06日 12時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
三井情報R&D部の岡部伊隆シニアマネジャー

 「市況予測の機能を汎用的なSaaSとして提供したい」── 三井情報(MKI)がこれまでにない意欲的なクラウドサービスに取り組んでいる。フロリダ州オーランドで開催中の「SAPPHIRE NOW 2014 Orlando」で同社が明らかにしたもの。昨年3月の概念実証開始から1年を経て、現在は独SAPのデータセンターが提供するSAP HANA Enterprise Cloud上で最終評価段階にあるという。

 1967年、三井物産の情報システム部門が独立して生まれたMKIは、'70年代半ばからバイオサイエンスの研究開発を手掛けるなど、先進的な取り組みで知られている。ご存じのようにバイオサイエンスを支えるのは膨大な量の臨床データだ。これらのビッグデータから抽出を行い、さまざまな組み合わせを模索し、解析していく。ITの力なくしては成り立たない。

 2011年、同社はイン・メモリ・データベースのSAP HANAと出会うことで、それまで数日掛かっていたゲノム解析を20分で処理することに成功する。翌2012年には、スマートフォンなどによる位置情報と顧客の属性情報や購買履歴などを掛け合わせ、SAP HANAでリアルタイムに分析し、売り上げの拡大などに生かす「動線分析」にも取り組んだ。いずれもこだわったのは、汎用的なサービスとして提供することだという。

 「目指したのは、ビジネスユーザーが社内外のデータを入れれば、自動的に相関分析を行い、市況を予測してくれる汎用的なサービスだ」と話すのは同社R&D部の岡部伊隆シニアマネジャー。さまざまなデータから、ある商品の市況に影響を与える説明変数をユーザーが絞り込むこともできるし、意図的に別の説明変数を加えることもできるのが特徴だ。

 親会社の三井物産は、原油やガスなどのエネルギー、金・銀・プラチナなどの貴金属、小麦・大豆・トウモロコシなどの穀物などを商品先物取引所などで売り買いする。これまでにも市況予測レポートを販売する会社はあったものの、社内のデータを生かそうとすると、Excelなどに頼らざるを得なかった。

 MKIがSAPと取り組む市況予測サービスでは、社外から購入した為替データ、商品データ、輸送費データ、マクロ経済データなどと、社内の取引に基づくデータをクラウド上のSAP HANAに取り込み、さまざまなアルゴリズムを組み合わせ、より精度の高い予測を行うことができるという。SAP HANAには、「Predictive Algorithm Library」と呼ばれる予測分析ライブラリがあらかじめ用意されているほか、足りないアルゴリズムはR言語によって追加した。

 「説明変数同士の組み合わせも厄介で、組み合わせて使うと精度が落ちてしまうものもある。それらを分析していくには、やはりSAP HANAのスピードが欠かせなかった」と岡部氏。

 それでもユーザーからは誤差10%未満という予測精度が求められ、試行錯誤が続いたという。

 「この1年、商品や予測期間によって最も良い結果が得られるアルゴリズムの組み合わせをユーザーと一緒になってチューニングした」と岡部氏は振り返る。どのデータがどれくらい予測結果に影響を与えているのか、その度合いもブラックボックス化せず、見える化したという。

 この4月、SAPジャパンは国内のクラウドデータセンター開設と、マネージドサービスを付加したSAP HANA Enterprise Cloudの提供開始を発表したばかりだが、MKIの市況予測サービスは、その本番稼働一番乗りを視野に入れている。

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