業務パッケージの提供する業務プロセスをそのまま導入することができないのであれば、スクラッチ開発するしかない。スクラッチ開発で開発作業・要員を削減する方法としては、プログラミングせずにシステムを開発できる“開発ツール”の活用がある。
最近、超高速開発に関する本が出版されたり、コミュニティが作られたりなど注目を集めつつある開発ツールだが、最近になって開発されたものではない。その歴史は古く、4GL(Fourth Generation Language)として1980年代から存在するものである。今頃になって話題になるということは普及していない証拠だろう。
また、開発ツールを使用することによってプロトタイピング・反復型開発やアジャイル型開発が行いやすくなるが、いまだに開発の主流はウォーターフォール型開発であること(図表5参照)からも、導入が進んでいないことが分かる。
開発ツール導入の障害になるのは、細部にこだわる姿勢である。細かなデザインや機能にこだわると、どうしても開発ツールでは実現できない部分が出てきてしまい、「使えない」と評価されてしまう。そのため、なかなか開発ツールの導入が進まない状況にある。
プログラミングによるスクラッチ開発偏重姿勢を正し、開発作業を削減すれば、日本のIT人材に対する需要を削減でき、人材不足を解消できる。そのためには、ユーザー企業は次の2点に取り組む必要がある。
業務パッケージ導入の阻害要因の最も大きなものは、自社流の業務プロセスへの“こだわり”だ。「事業部門から『システムはこうしてもらわないと業務ができない』と声高に要求され、全社的な業務の整流化(標準化:筆者加筆)に取り組まずにバラバラにERP導入プロジェクトが進んでしまったのです」(笹氏、同上)ということのないように、自社流へのこだわりを捨てる必要がある。
また、開発ツール導入の阻害要因も、細部にこだわる姿勢にある。開発ツールで実現できない部分ばかりに注目して「使えない」と判定する悪癖を止め、「どう使うか?」を考える前向きな姿勢が開発ツール活用では求められる。
自社流や細部へのこだわりを捨てない限り、スクラッチ開発偏重姿勢は改善されない。しかし、細部へのこだわりは日本人の特性とも言え、高品質な製品・サービスを生み出した源でもある。これを捨てるのは非常に抵抗があると思われるが、ぜひ、取り組んでいただきたい。
自社流や細部へのこだわりを捨てることにより、得るものはスピードである。
事業環境の変化は激しい。
変化に対応して事業活動の根幹となる情報システムも変化しなければならない。情報システム対応の遅れにより事業環境の変化に対応できないと、企業競争力を損なう可能性が高い。競合よりも一日も早い稼働が企業競争力に直結する時代だ。こだわりを捨て、早期稼働を目指す姿勢がユーザー企業のIT部門には求められる。
そのためには、業務パッケージや開発ツールなどの活用だけではなく、クラウドサービスの活用や、核になる部分だけ稼働させ、稼働後に徐々に機能アップを図るリーンスタートアップやアジャイル開発なども有効な方法になる。
ユーザー企業のスクラッチ開発偏重姿勢を解消することにより、自社の企業競争力が増すとともに、IT企業のIT人材不足も解消することが可能になる。まさに、両者の利害が一致するのだ。
【参考文献】
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