手のひらサイズの“ITお守り”で山の遭難を防ぐ 長野県のチャレンジiBeaconが命を守る(2/2 ページ)

» 2015年06月26日 07時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]
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雪に埋まった遭難者の捜索にも役立つ

 3つめの雪中のビーコン検索は、雪でできた穴の中にお守りビーコンを持った人が落ちた場合、どのくらいの距離から居場所を検知できるかを検証。1メートルの深さの穴に落ちた場合、約6メートル離れた場所からビーコンを検知できることが分かり、雪崩に巻き込まれた遭難者の捜索に使える可能性も見えてきた。

 遭難者の捜索は、人が1メートル間隔で並んで進みながら行うケースもあるが、ビーコンを持っている人を探す際には半径6メートル程度の距離から検知できる可能性があるため、最大12メートル間隔で人を配置した捜索が可能になる。これは捜索の効率を高めることにもつながるという。

Photo 雪でできた穴の中に落ちたビーコンを検索する実験も実施。1メートルの穴に落ちた場合は6メートル離れた位置から信号を検知できた

 いずれの実験でも、ビーコンが遭難防止に一定の役割を果たすことが確認できたが、導入に向けた課題も見えてきた。登山者の移動履歴の配信では、Android端末を設置したすべてのポイントでお守りビーコンの電波を検知できたものの、その精度にばらつきがみられた。お守りビーコンを持った登山者が集団でAndroid端末の付近を通過すると検知されないケースや、入り口が広い山小屋にAndroid端末を設置すると、端末から離れた場所を通過した登山者のお守りビーコンを検知できないケースがあったという。

 はぐれ防止アラートについても、はぐれた人がいないのにアラートが出たり、はぐれても通知されない場合があり、実用化するには電波強度や検知間隔の調整が必要なことが分かった。

 今後は実用化に向けて、お守りビーコンの検知率の向上やマネタイズ方法の検討、多様化する登山客に対応するための仕組み作りといった課題の解決を目指すという。

山岳関連の情報を集約、解析し、サービス向上に生かす

Photo 総務省が旗振り役を務めるG空間プラットフォームの活用に向けた取り組み

 長野県では、お守りビーコンなどで取得した登山客の移動履歴を、観光用途で使うことも検討している。例えばビーコンを通じて性別、年齢ごとの山の移動時間が分かってくれば、より正確な旅程表を作れるようになる。

 「登山用の地図には、“この地点からこの地点までは○分かかる”といった移動時間の目安が表示されているが、この時間が誰にでもあてはまるとは限らない。移動履歴を分析すれば、50代女性の足なら○分くらい、といったリアルな情報を提供できる」(ビッグツリーテクノロジー&コンサルティングのSI事業部でマネジャーを務める羽染智氏)

 土砂崩れや雪崩で変わってしまうこともある登山ルートの修正も、移動履歴を分析することでリアルタイムな反映が可能になるなど、活用の幅は広がりそうだ。

 こうした位置情報の活用については、自治体や行政、民間企業が持っているデータを集約し、分析した上で必要な情報を組み合わせてサービス開発に生かすための取り組みが始まっているという。

 日々、集まってくるデータを生かすことで、例えば事故が起こったばかりの場所をツアーから外して安全なものにしたり、登山者向けの保険会社が保険の適用を減らすための取り組みに生かしたりと、新ビジネスの可能性も広がりそうだ。

Photo 行政が持つ山中の危険な場所のデータ、自治体が取得した移動履歴、民間サービスがSNSを通じて収集した山の写真や観光情報などのビッグデータをG空間プラットフォームに集約し、企業が自治体が必要な情報を組み合わせて新サービスを開発できるよう支援する

 今回の実験は、活用スタイルが一般的なビーコンの活用とは逆になっているのも面白い。ビーコンを使ったサービスは、スマホを持った人がビーコンに近づくことで何らかのサービスが提供されることがほとんどだが、長野県の実験では、ビーコンを持った人が端末に近づくことでサービスが提供される。この理由は、使う場所が“山”という特殊な場所であるためだ。

 山では都市部のように気軽に充電できないため、命に関わる情報を発信するには心許ない。また、足下がよくない場所が多い山での“歩きスマホ”は命に関わる事故につながる可能性もある。その点、ビーコンはスマホに比べてバッテリーの持ちがよく、小型で持ち歩きやすい。「こうした背景から、ビーコンは人に持ってもらい、それを検知するAndroid端末を充電環境がある場所に設置しています」(茅野氏)

 2020年に向けて政府は、海外観光客の満足度を高める“おもてなしの取り組み”に注力している。位置情報の活用は、その大きなカギになりそうだ。

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