プライベートDMPの導入と聞くと、各種データ統合に耐えうる形に整備するという点で苦労しそうだが、クレディセゾンではその点はあまり問題がなかったそうだ。一方で、苦労したのは、いかにセキュリティを担保するかだった。
2015年に経済産業省は「クレジットカード産業とビッグデータに関するスタディグループ」を設置し、ビッグデータの利活用に関する報告書をとりまとめた。スタディグループには吉田氏らと同じネット事業部の磯部泰之データマーケティング部長がメンバーとして参加しており、そこからの情報も得ながら、今後の法制度の改正等も想定し、セゾンDMPでは、会員データを特定の個人を識別できないように加工して利用している。
さらに、同社としては初めてクラウドサーバを導入するという決断も大変なポイントだったという。今後増大していくデータ量を想定して自社サーバを立てるのは非効率。スケーラビリティやコストの観点からはクラウドサーバは有効な選択肢ではある。
「セゾンDMPに個人情報は一切入っていないのですが、やはりわれわれは信用第一の業態なので、万が一のときの影響は計り知れません。情報をしっかり守っていくということが大前提です。そのため、データを社外に預けるという選択には、最初は抵抗があり、さまざまな社内調整が必要になりました」(吉田氏)
クレディセゾンの場合、カードの会員情報やWeb行動履歴といったデータは、オンプレミスで管理しているが、セゾンDMPのプラットフォームはMicrosoft Azureを採用した。
導入の際はAWSも検討したとのことで、「どちらも機能や価格の面では、大きな差はなかったが、今回はセキュリティ担保のために必要なコミュニケーションが取りやすかったのがAzureだった」(吉田氏)という。
例えばデータセンターの見学を行い、井上氏は「ここまでやっているのか」と、そのセキュリティ強度にあらためて信頼感を抱いたそう。そして、見学の際にはコンプライアンス部門のメンバーにも同行してもらい、その感覚を共有した。ステークホルダーを巻き込むことで、社内の理解を得てクラウド導入に踏み切ることができたのだ。今回はAzureを選択したが、今後はAWSなどの他ベンダーのクラウド導入も含めて、さまざまな可能性を検討しているという。
近年、クレジットカード業界は年会費やポイントの還元率、加盟店の規模だけではなく、「サービス」で差別化を図る方向に切り替えつつある。DMPを構築し、データ活用で付加価値を狙う――これがこれからのクレジットカードビジネスのスタンダードになるのかもしれない。
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