“はんこを押す文化”もクラウド化――「Adobe Sign」日本でも本格展開へ

アドビシステムズが、電子サインソリューション「Adobe Sign」を日本でも本格展開する。最新バージョンのリリースに合わせ、国内での支援体制を整え、普及を後押しする。

» 2016年10月19日 08時00分 公開
[園部修ITmedia]

 アドビ システムズが10月17日、電子サインサービス「Adobe Sign」を日本市場でも本格展開するため、最新バージョンの提供を開始し、サポート体制を充実させたことを明らかにした。Adobe Document Cloudの重要なサービスの1つとして、企業システムなどとも連携しつつ、業務やビジネスの効率化を支援する。

Adobe Sign Adobe Document Cloudの鍵を握るサービスの1つとして強化する

 日本では、電子署名法が施行された2001年以降、文書や手続きの電子化が徐々に進んでいるが、企業内には「紙の書類にはんこを押す」文化が根強く残っている。AdobeがIDCに依頼して行った調査(The Document Disconnect 2015)によると、グローバルでも「意思決定の80%が依然として紙のプロセスに依存」しているという。これにより何が起きているかというと、回覧されているドキュメントの現在の状態がよく分からなかったり、承認に時間がかかりすぎたり、機密情報が誤って露呈するリスクがあったりといった問題が未解決のまま残されている。

 こうした「承認」や「契約」のプロセスが電子化されると、いつでもどこでも作業が可能になり、ワークフローの合理化につながる。例えば1年半前にAdobe Signを導入した英国のJaguar Land Roverでは、さまざまなレビューや承認のプロセスが改善され、かつて数週間かかっていた承認が数日で完了するようになり、どこでスピードが落ちているか、どの部署がサービスレベルを満たしていないか、などが可視化されたそうだ。またRoyal Bank of Scotlandでは、顧客向けのサービスにAdobe Signを導入して1年以上がたつが、これまで約14日かかっていたローンの申込書類が4時間で申し込み者に戻るようになり、問い合わせの電話が年間で100万件も減ったという。

Adobe Sign Jaguar Land RoverでAdobe Signを導入した結果、業務が大幅に効率化された
Adobe Sign Royal Bank of Scotlandでは、Adobe Signの導入により顧客の満足度が向上、問い合わせの電話も大幅に減ったという

 日本でも、「承認に関わる管理職の約56%が、電子サインの活用に関心を寄せている」と代表取締役社長の佐分利ユージン氏は言う。それでもなお、電子サインの導入が進まないのは、導入に障壁があるからだ。

Adobe Sign 承認に関わる管理職の約56%が、電子サインの活用に関心を寄せている

 特に大きいのが、企業内にある既存のルールや制約の問題である。ビジネスプロセスの変更が必要になると、導入にはどうしても二の足を踏んでしまう人が増える。また契約書などに用いる場合は、相手の会社にも導入してもらう必要があり、ハードルが高い。あるいはIT部門や業務部門に、基本的な情報や知見が不足していて、そもそも何から検討すればいいのか理解されていない、というケースも多分にあるという。

Adobe Sign しかし電子サインの導入にはさまざまな障壁がある

 そこでアドビでは、以下の4つの施策を打ち出し、日本でもAdobe Signを積極展開する。

  1. Adobe Signの最新バージョンを日本語で提供
  2. 導入支援サービスを提供
  3. パートナーエコシステムの強化
  4. デジタルトランスフォーメーション研究会を支援
Adobe Sign 4つの施策で日本でのAdobe Sign普及を目指す

 まずAdobe Signの最新版提供に合わせて、データセンターを日本国内に設置した。日本のユーザーのすべてのトランザクションは、日本国内のデータセンターに保存するという。またAdobe Sign自体のUI改善、新たなテンプレート追加などを行ったほか、印影もサポートし、はんこを押すのと同じ感覚で利用可能にしている。

 さらに、企業での導入を支援するため、アドビ システムズ社内で要員を倍増させた。R&D部門、営業部門、営業サポート部門など、それぞれの部署で必要な人員を増やし、手厚くサポートができるような体制を作ったという。管理者向けのトレーニングや運用支援計画の立案サポートなどは、無償で行う。ビジネスワークフローの設計やAPI活用まで踏み込むと有償になるが、コンサルティングサービスも提供する。

 もちろん企業への導入には、単体のソリューションとしてではなく、企業内の他のシステムとの連携も必須なので、業務システム導入で実績があるJBSとのパートナーシップも発表した。既存の社内ワークフローにAdobe Signを組み込みたい、というニーズに応える。また営業管理・支援システムなどで定評のあるセールスフォース・ドットコムとの連携も強化し、Salesforce上で電子サインができるようなシステムも導入可能にした。

 Adobe Signを導入した企業間での共通ルールの構築や、参加企業の知見の共有などを行う「デジタルトンランスフォーメーション研究会」の活動も支援していく。デジタルトランスフォーメーション研究会は、パーソルグループのテンプホールディングス 取締役執行役員、小澤稔弘氏が初代理事を務めるグループで、すでにAdobe Signのトライアルを実施している企業などが加盟している。

ジョン・ペレラ氏 Adobe SystemsのAdobe Document Cloudプロダクトマネジメント担当 バイスプレジデント、ジョン・ペレラ氏

 Adobe SystemsのAdobe Document Cloudプロダクトマネジメント担当 バイスプレジデント、ジョン・ペレラ氏は会見で「現在広く利用されているPDFファイルのように、Adobe Signも普及させていきたい」と話した。

 本格的に活用するにはシステム連携などが必要なので、パートナー企業を通しての販売(導入)が中心になるが、個人レベルでもコア機能が利用できるパッケージ版が利用可能だ。こちらはIT部門を通さずに利用できるので、手始めに使ってみる、といったことも可能だ。

 すでに広く普及しているPDFファイルをベースにしているという点で、本人確認と非改ざん性の担保が可能な新たなソリューションとして、広く受け入れられる可能性はある。ただ、まだまだ乗り越えなくてはいけない壁は高く、数も多そうだ。会社間の取引にまで普及させて行くには、さらなる支援と啓蒙が必要になるだろう。

Adobe Sign 今後の機能アップで、ドキュメントがワークフローのどこにあるか把握できるようにするほか、オーサリングやアナリティクスにも対応予定。パートナーシップも拡大するほか、モバイル環境でも容易に扱えるよう改善していく
Adobe Signを使用して契約書をやり取りするデモ

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