「風神雷神図」をVRで忠実に再現――質感を精確に記録するデジタルアーカイブ技術、凸版印刷が開発

凸版印刷が、照明環境や観察方向によって見え方が異なる素材の質感を精確に記録し、VR上で忠実に再現できるデジタルアーカイブ技術を開発。この技術を活用し、重要文化財「風神雷神図屛風」と「夏秋草図屛風」の質感を忠実に再現したVR作品を製作した。

» 2018年01月09日 11時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

 凸版印刷は、光沢や表面の凹凸、色調など、照明環境や観察方向によって見え方が異なる素材の質感を精確に記録するデジタルアーカイブ技術を開発した。これまで困難とされてきた文化財特有の質感をVR上で忠実に再現できるという。

 人が視覚によって対象の質感を知る手掛かりとなる陰影や光沢は、照明環境や観察位置によって変化する。このため、文化財を質感が分かるように撮影する際には、照明装置を移動させながら対象となる文化財に照明を当てて、反射光を高解像度カメラで連続的に撮影し、あらゆる方向からの入射光に対する反射光の変化を取得する。

 今回開発した技術では、この撮影画像から文化財の表面の光反射特性を「光沢」「色」「微細凹凸」といった質感の要素に分解することで、照明環境や観察方向に依存しない文化財そのものの質感データとして精確にデジタルアーカイブすることが可能になった。質感データを活用することで、同一の材質であっても微細な質感の違いを正しく再現できるという。

Photo 質感記録撮影の風景(左)と、質感要素データ(右)

 また今回、独自の分割撮影手法により、東京国立博物館所蔵の重要文化財である「風神雷神図屛風」と「夏秋草図屛風」の高精細撮影を実施。独自の合成技術を用いて、分割撮影した画像を生成することで、各作品とも30億画素の高精細画像で作品を実寸大で精確に再現した。

Photo (左)高精細分割撮影、(右)取得したデータ

 さらに、高精細画像に質感要素データを取り込むことで、VR上で設定した照明の位置や強さ、視点位置に応じて、文化財の質感を物理特性に基づいて忠実に再現できるという。

Photo (左)撮影画像、(右)VRによる再現画像
Photo 「TNM & TOPPANミュージアムシアター」で上映される『風神雷神図のウラ −夏秋草図に秘めた想い−』

 この技術は、東京国立博物館東洋館内のVR作品上演施設「TNM & TOPPANミュージアムシアター」で公開されるVR作品『風神雷神図のウラ −夏秋草図に秘めた想い−』の製作に活用されている。同作品は、ロウソクの光で照らした場合や、月明かりに照らされた場合の見え方など、実際の文化財では不可能な条件下での鑑賞を、精確にシミュレーションしているという。上演期間は2018年1月4日から4月22日まで(詳細はこちら)。

 なお、デジタルアーカイブからVR制作、公開までの各工程では、BT.2020の色域基準に準拠した一貫したカラーマネジメントを実施し、色鮮やかでより忠実な文化財の再現を実現しているという。

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