人工知能にカワイイ服を“作って”もらう? カタログ大手「ニッセン」のディープラーニング活用紙からWebへのシフト(2/2 ページ)

» 2018年10月15日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]
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服の“かわいさ”や、買った理由を理解するレコメンドシステム

 レコメンドシステムにディープラーニングを取り入れたことで大きく変わったのは、顧客の潜在的なニーズにアプローチできるようになったことだ。

 例えば、腰痛持ちの人に向けたインナーを調べている人に、ダイエット向けの座椅子を薦めるといったレコメンドが可能になった。これは両者が「姿勢を良くしたい」というニーズにおいて、近しい存在であることがレビューの文章や顧客属性、行動履歴といったデータから分かったためだ。

 「ディープラーニングで調べた結果、『マタニティー』と『着痩せ』は似ているという結果が出てきました。僕自身も一瞬意味が分からなかったのですが、考えてみれば妊婦の方の中には体形を隠したい人もいる。このように、背景までを含めた関係性を洗い出すことで、人間には思いも付かなかった組み合わせが出てくる可能性があるのです」(松田さん)

photo 「腰痛の人には、姿勢にも悩みがある」ということを理解したレコメンデーションの例
photo 卒業式というワードで服を調べる人は、『ブラックフォーマル』『清楚』といったキーワードで服を探す人と近しいという結果が出たそうだ

 この他、気温や湿度といった天候データを組み合わせ、その日の天気に応じてレコメンドするアイテムを変えるといった方法も試しているそうだ。こうした改善の結果、レコメンドに対するクリック率も向上し、売り上げ全体にもかなりの効果が出ているという。

 また、最近では、商品のレビュー文章から文意を読み取り、顧客が「カワイイ」と思う特徴を学習させる試みも行っている。約50万点の商品画像とレビューを組み合わせ、かわいいと思われる可能性を数値化したそうだ。「さまざまな感情について学習できれば、新商品を出す前に顧客の反応や売り上げを予測するようなモデルも構築可能ではないか」と松田さんは考える。

 「かわいさ」を数値化できれば、その数値が高いデザインを推測することも可能になる。実際にニッセンのユーザーが「かわいい」と思うであろう、下着のデザインをAIに生成させているとのことで、商品開発の参考にする計画もあるという。

ディープラーニング「だけ」ではうまくいかない

 このようにディープラーニング活用を進めているニッセンだが、従来使っていたレコメンドの手法を捨てたわけではない。ディープラーニングには、機械が答えを出すまでの過程が分かりにくいという側面もあるため、ノウハウをためることとは相性が悪い。「データ解釈的な手法など、クラシックなメソッドと両方を使わないと、プロジェクトはうまくいかないでしょう」(松田さん)

 売り上げ(ビジネス)に対して一定の効果が出た今、松田さんは改めて今後の方針を思案しているところだと話す。

 「AIは、どのようなデータを教え込ませるかが全てです。顧客の行動や嗜好、レビューを学習させれば、そのAIは彼らの満足度を最大化させる行動を取るでしょう。一方で売り手のロジックのみを学習させれば、そのAIは売り手のメリットを最大化させるような行動を取ることになります。だからこそ、長期的な視点で『企業として何を目指すのか』というポイントがぶれてはいけないのです」(松田さん)

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