人が“生命”を感じ、信頼できる対話AI 実現のヒントは掃除ロボット「ルンバ」にあるサイバーエージェント「AI Lab」に聞く(前編)(3/4 ページ)

» 2018年11月08日 08時00分 公開
[大内孝子ITmedia]
photo サイバーエージェント アドテク本部 AI Lab リサーチサイエンティストの馬場惇さん

 「僕らは対話ができるエージェントを使って接客をやりたい。しかし、音声認識や画像認識の精度は今はまだ限界があります。接客など、実際の対話で使うとなると難しい。このとき、僕らが目をつけたのはルンバだったんです。ルンバは掃除をするロボットですが、ルンバがうまく動くようにアシストするのは人間です。そんな関係性が築ければいいと考えました」(馬場さん)

 例えば、ルンバの邪魔にならないように、床に散らかっているケーブルを片付ける――掃除ロボットを使っている人にとってはおなじみのこの光景には、2点注目すべきポイントがあるのだ。

 人間がある程度片付けて障害物を減らすことで、ルンバは掃除という役割に集中できるようになる。人間にとっては煩わしい作業を強制されるわけだが、この一種の“共同作業”を介するおかげか、自分が片付けないと機能を発揮できない、ルンバへの感情移入のようなものが起こるケースもある。まるで、意志を持った生き物であるかのように。通常の家電製品よりも、明らかに密な関係を築いているといえるだろう。

 そのため、ルンバが壊れた際には「修理してください」ではなく、「直してあげてください」と言う人がいたり、ルンバが家の外に出てしまって、町中をさまよう動画が共感を集めたりする。ここに、人が対話エージェントを信頼する世界があるのではないかと考えたわけだ。

 人間が信頼し、アシストしたくなるようなエージェント。不完全なようにも見えるが、特定の機能に特化しているものであれば、そこで生まれる信頼関係をベースにして、接客やお金のやりとり、保険といった、さまざまな役割を乗せることが可能になる。

 ビジョンが定まってからは、それをベースに、企業と組む形でさまざまなプロジェクトを進めている。例えば、東急ステイでは、卓上型対話ロボット「CommU(コミュー)」と「Sota(ソータ)」を使った接客の実証実験を行っている

photo 東急ステイとの実証実験。ロボット2体の会話を聞くだけだが、最初にあいさつを交わすことで会話している感覚になる

 客が近づくと、まずはロボット側から話しかけるものの、その後はロボット2体だけで会話をするというもので、人間との対話が発生しないというのがポイントだ。会話の破綻が起きないというメリットもあるが、ロボット同士の会話を通じて、客に情報提供ができるのも見逃せない。

 1対1で使うようなアシスタントは、質問に答えることしかできないが、2体の雑談であれば、「最近、おいしいお店知ってる?」「ああ、〇〇だよね」とか、「今日、何が食べたい?」「ラーメンかな」「おいしいお店、知ってるよ」など、雑談の中に情報を入れ込むことが可能になる。自然な形で情報を提供する方法としては有効だろう。

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