人が“生命”を感じ、信頼できる対話AI 実現のヒントは掃除ロボット「ルンバ」にあるサイバーエージェント「AI Lab」に聞く(前編)(2/4 ページ)

» 2018年11月08日 08時00分 公開
[大内孝子ITmedia]

 他にも、もじもじしながらティッシュを配ろうとする「iBones(アイ・ボーンズ)」や、複数体のロボット同士が会話し合うことで周囲の人との関係性を構築するロボット、流ちょうではない発話で関わりを構築するロボットなど、岡田教授が提案するのは「弱いロボット」というコンセプトだ。

 認知科学、生態心理学、社会心理学などの知見を用いて、人間とのインタラクションをデザインし、目的を遂行する。機能を加えたり、質を上げたりするのではなく、あえて機能を絞って“欠陥”のような部分を作ることで、周囲の人間から「親しみ」や、思わず手助けしたくなるような感情を呼び起こすというアプローチだ。

人を巻き込み、関係を作る「ルンバ」の世界観

 AI Labが「インタラクションデザイン」に強いのには理由がある。この研究組織が、大阪大学基礎工学研究科の石黒研究室と共同で研究講座を開設しているためだ。

 石黒浩教授は、これまで「ジェミノイド」シリーズ、「ERICA(エリカ)」「マツコロイド」とさまざまな人型ロボットを発表するなど、人間社会にロボットが入り込む未来を見据えた研究を行っている。

 ジェミノイドシリーズには、彼自身を模したアンドロイドもあり、そのリアルさから薄気味悪さや嫌悪感を抱かせてしまう「不気味の谷現象(※)」とセットで話題に上がることが多い。しかし、そこで投げかけられている問いは本質的なもので、ロボットの社会実装には不可欠な議論を巻き起こしている。

※(主に)ロボットがその外観や動作において、より人間らしく作られるようになるにつれて、より好感的、共感的になっていくが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わる現象

photo 石黒研究室「ERICA(エリカ)」

 石黒研としては、サイバーエージェントのオファーで大阪大学の中に新たな研究室を作った形だが、彼らはなぜこの話に乗ったのだろうか。馬場さんはその理由を次のように推測する。

 「サイバーエージェントは、Web業界で広告やメディアをやっていたので、そのリソースや知見を持っていることが、一番大きな理由だったと思います。石黒研はどちらかというと現実的な、身体性を持ったロボットを中心に扱ってきたので、Webやアプリの世界で新しい取り組みを始めようと考えたときに、データや開発部隊を持っている弊社が魅力的に映ったのかもしれません」(馬場さん)

 こうして、2017年4月に発足した共同研究講座では、まずはお互いが目指す世界観やビジョンをすり合わせていった。このときに出たキーワードの1つが「信頼したくなる、信頼してしまう対話エージェント」だ。そのアイデアの源泉になったのは、掃除機ロボットの「ルンバ」だった。

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