ICT戦略チームでは、UiPathを含む複数のRPAを複数の条件から検討。セキュリティ体制や、庁内で動く数百のシステムやツールとの連携のしやすさ、コストパフォーマンスなどの面から、UiPathが適していると判断したという。
「県民の生活を支えている以上、止まってしまっては困るシステムもあります。既に世界でさまざまなシステムに展開している大規模なベンダーから継続してサポートを受けられる安定感も重要でした」(戸澤氏)
2018年5月には、RPAについて職員向けの説明会を開催。「正直われわれも不安で、10人も来なかったらどうしようと話していました」(戸澤氏)という説明会には、定型業務を多く抱える財務、税、土木、保険、県警などのセクションから、80人ほどの職員が集結した。とはいえ、1カ月前にできたばかりのチームが紹介する耳慣れないツールに職員が興味を持った背景には、ある理由があったという。
菊池氏によれば、職員がRPAに関心を示した理由の一つが「導入の簡単さ」だ。
「今までは、(ITで)何か新しいことをやるとなると『システムを必ず作る』という感じでしたが、そうすると開発や運用に労力がかかる。ただでさえ忙しいときに、そちらに労力や予算はかけられません。説明会では、RPAが(一般的な業務システムと比べて)予算も労力もかけず、比較的簡単に業務を自動化できる技術だと説明したら、おおむね腑に落ちた人が多かったですね」(菊池氏)
また、「ICT戦略チームが(既存の)組織系のセクションではないからこそ、抵抗もなかったのだと思います。皆さん『仕事が忙しいので、早く効率化したい』というニーズがあり、『(RPAに)仕事を奪われる』という感覚は逆になかったのではないでしょうか」と、戸澤氏は語る。
手応えを感じたチームだが、いざ庁内でRPAの実証実験を行おうとすると課題が立ちはだかった。使える予算がなかったのだ。
「他県の中にはRPA実証実験の予算を既に取っていたところもありましたが、茨城県では(ICT戦略チームの)組織も立ち上がったばかりで、(いきなり2018年4月にいきなり決まった)RPAの実証実験に使える予算がありませんでした」(戸澤さん)
茨城県側がUiPathに相談したところ、「自治体に導入した経験がないので、予算なしでできる実証実験として協力したい」という申し出があり、実証実験が決まったという。
2018年6月には、茨城県庁で実証実験の対象になる業務を募集し、キャップジェミニとUiPathの協力を得て選定を開始。県庁全体から集まった65の業務から、「これからも必須な業務か」「業務データが既に電子化されているか」「業務のルールが標準化されているか」「導入効果が高いかどうか」「扱うデータの規模はどれくらいか」といった選定基準を通った4業務が選ばれ、2018年8月から10月にかけて実証実験が行われた。
さて、実際に3カ月間行われた実証実験の経緯や、その過程で見えてきたという「県庁でRPAを活用するなら必ず変えていかなければならない」と戦略チームの2人が語った、県庁が抱える独特の課題については、後編でお伝えする。
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