「役員のIT教育」「ビジネス課題の改善」「企業の競争力強化」――企業にCIOが必要なこれだけの理由CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(1/4 ページ)

変化の時代を生き抜くために、なぜ、CIOが必要なのか――。フジテックCIOの友岡賢二氏とクックパッド情シス部長の中野仁氏が、対談で明らかにする。

» 2019年06月14日 07時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

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この対談は

クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。

今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。


フジテック 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏プロフィール

1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。


クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。


 「日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション」――。その言葉通り、日本全国津々浦々の“お座敷”で講演を行い、CIOの必要性を説いているのがフジテックのCIO、友岡賢二氏だ。CIOが果たすべき役割とは何か、選ばれるためにはどんな経験や考え方が必要なのか――。

 前回のテーマ「日本企業が『GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のマネをせずに』北米企業に勝つ方法」に続いて、今回は「企業にCIOが必要な理由」というテーマで話が進んだ。

Photo フジテック 常務執行役員デジタルイノベーション本部長の友岡賢二氏(画面=右)とクックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長の中野仁氏(画面=左)

情シス業務のスピード感を高める2つのコツ

中野 情シスというのは、独自のカルチャーがあると思います。どうしてもスピードより品質を重視しがちで、「石橋をたたいて渡る」という方向に傾きがちです。周囲からは「できて当たり前」と思われていて、逆にできないとたたかれるわけですから、どうしてもそうなってしまいますよね。

 「品質とスピードのどちらを取るか」というのは、情シスの仕事にとって永遠の課題だと私は思うのですが、友岡さんは、メンバーや組織に対して「スピードを重要視して動いていく」というふうに方向付けるために、具体的にどんなことをしていますか?

友岡 フジテックでは、もともと古いクライアントサーバテクノロジーを使っていたところに、いきなり最先端のクラウドテクノロジーを導入することになったので、どうしても「すぐに習熟する」というわけにはいきません。そもそも、皆がそのテクノロジーを導入することに納得して「これならできる」と思ってくれないと、なかなか前に進めません。

 そのような環境でスピード感を出そうとして急ぎすぎると、納得を得られない恐れがあるんですね。だから僕は、かかる時間に関してはもう、ある程度目をつぶっています。製造業ですので、Web系の会社社と比較すると、PDCAのサイクルが比較的ゆっくりしているから、じっくり人を育てることができる利点があります。

 そこで強く意識しているのは、「早く始める」ということです。新しい試みはどうしても時間がかかるので、とにかく人より早く始める。今、当社では、PBX( Private Branch eXchange :構内交換機)をなくしてクラウド型統合コミュニケーションツールの「Dialpad 」を全面的に導入していますが、まだDialpadがSwitchと呼ばれていた時代にサンフランシスコ本社を直接訪問して日本で最初に導入しました。導入にはそこそこ時間がかかりましたが、いち早く始めたおかげで今、こうして使えているわけです。

 つい最近「 Alibaba Cloud Express Connect」を本番稼働しましたけど、これも、とにかくどこよりも早く始めたおかげで、他社に先駆けて日中間の専用線接続のサービスを実現できました。

中野 技術とトレンドの選択眼、つまり“企画力”で実行段階におけるスピードの遅れをカバーするわけですね。

友岡 そうですね。そうなると、僕がどれだけ早いタイミングで適切な技術や製品を選んで、「これをやるぞ!」というふうに掛け声を上げるかが重要になってきます。その後はちょっとまったりしてるんですけど、まったりしつつもじわじわと進んでいく感じです。

中野 私もシステム企画を兼務しているので、技術トレンドを読み解くことの大変さはとてもよく分かります。

友岡 これは本当に難しいんですけど、ポイントは「潮の変わり目」みたいなものを大きな文脈の中で読み取ることですね。でも、今は、「オンプレミスからクラウドへ」という大きな流れの中にあるから割と簡単で、そちらの方向をまずは追っていく、ということだと思います。

中野 今は良くも悪くも、製品やサービスの勝ち負けの結果が早く出やすいですね。コンシューマー向けサービスだけでなく、今やエンタープライズ向けサービスもクラウドが中心になったことから勝ち負けが分かりやすくなりました。

 一昔前のパッケージシステム華やかなりし頃は、各パッケージ製品が拮抗し続けて、買収したりされたりを延々と続けるので、潮目を読むのがとても難しかった。クラウドサービスは、あるサービスが勝ち始めると一気に市場を席捲するので、読みやすいですね。

 システム刷新の5並列プロジェクトで製品を選定したときの考え方も割とシンプルで、基本的に「デファクトスタンダードの製品を採用します。Gartnerのマジック・クアドラントの右上(のマトリックス)にある製品から選びます」というものでした。

 もちろん、できる限りきちんと要件も上げて選定していますけれど(笑)、昔と比べればかなり選択肢は絞り込みやすかったですね。情報も調べればたくさん出てくるから、集めやすい。

友岡 そうですね。フジテックでも、ワークフロー製品を入れる際に候補がいくつかあったんですけど、「ベンダーの営業呼んで聞く暇あったら全部買っちゃえ!」と。実際利用料は月数百円ですから、あれこれ比較検討している時間とコストの方が高くつくわけです。で、結局最終候補のワークフローを2つほど選んで、最低利用枠の10ユーザー分の費用で、PoC(Proof of Concept:新たな理論や概念を実地で検証すること)で実装してみました。それを実際にユーザーに使ってもらって、一番良かったものを採用しました。残りのはもう、その時点で捨ててしまって、残った1つはPoCで開発したものをそのまま本番リリースしました。

 この方法のメリットは、ベンダーの営業の対応がいいことです。プリセールスではベンダー側もなかなか本気になりませんし、(フジテックの本社がある)関西まではなかなか東京から来てくれません。でも製品を正式に買って顧客になれば、ベンダーの営業も真剣に対応してくれるんですよ。

中野 なるほど! 私も製品選定の時には、ベンダーとはかなり突っ込んだ話をしたつもりだったのですが……。買ってしまうというのは、クラウド時代にはとても合理的なやり方ですね。この方法は今度、使わせてもらいます(笑)。

 パッケージ製品は、ライセンスを一括して買い取る必要がありますし、サーバを立ててインストールや設定をする必要があるので、どうしてもイニシャルコストが高くなりますよね。その点、クラウドで小さく始めれば、後々の展開時にランニングコストが高くなることもありますが、イニシャルコストは最小限に抑えられる。

友岡 クラウドだと、それこそ「1人月数ドル」の世界ですから、費用面では大したことないですよね。それに、大きな投資を伴うパッケージではなくクラウドの少額利用となれば、CFOにいちいちお伺いを立てることもなく、CIOである私自身の経費予算枠の中で判断できますから。

中野 決裁権を持っていると、やはり違いますよね。ちなみに今回のプロジェクトを始めたとき、私は完全にヒラ社員だったんですけどね(笑)。

友岡 決裁権があるか。人をアサインできる権限があるか――。やっぱり最後はここで差が出ますね。やっていること自体は、実はヒラだったころとあまり変わらないんですけどね。

 私自身、30歳の頃からERPの導入などに携わってきましたし、何十億円という規模の案件に関わってきましたが、当時と今とでやっていることに大きな違いがあるかといえば、実はそんなにない(笑)。でも、本質的じゃない意見やナンセンスな意見に振り回されずに済むようになったのは、本当に良かった。気持ちの上で、とても楽になりました。

中野 肩書が欲しいと思う理由は別に偉くなりたいとかじゃなく、仕事を進めたいだけなんですよ。

 自分が責任を取れる範囲で、お金と人をアサインできる。リソースの決定権をもって決められる。それがないと、何をやるにもあっちこっちにお伺いを立ててご承認いただいて、交換条件つけられて、結局、何をしたかったのか分からない施策になる。お互い不幸になる。

後は、経営レベルにシステム投資戦略のいろはから対等な立場で話せる。色んな会社の経営クラスの方とお話しする機会があるのですが、自分の専門領域はもちろん、すごいのですが、専門外であるシステム投資戦略には詳しくないことが多い。

友岡 まさにそこですね。CIOになると、そのへんがスッキリするんです。権限がないと、どうしても上から押さえつけられる場面も多々ありますから。でも、そういう方の意見も、決して間違っているわけではない。結局最後は、互いの主観がぶつかるわけですから、どっちも正しいと言えば正しい。それを、「どっちが正しいか」と議論を始めても、きりがないですよね。そんなことをやっていては、絶対にスピード感は出ない。

中野 社内のいろいろな部署の人たちとコンセンサスを取るために交渉したり、取らぬ狸の皮算用的なROIを無理やりひねり出したり、電子紙芝居的なプレゼン資料を作ったりひたすらあちこちと握ったりと、そんなことを延々とやっていては、とてもスピード感は出ませんよね。

友岡 そうですね。だから当社では、スタッフは僕にわざわざプレゼンする必要はないし、口頭で報告を上げてくれれば十分だと言っています。「ベンダーのWebページを見て、いいと思ったらまずは買って試そう!」という世界ですからね。もちろん、実際の購入には社内の事務手続きがありますが、そこに至るまでは何の資料も作る必要はありません。その段階でのスピード感をいかに高めるかという点については、かなり意識してやっています。

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