実は、この動きの背景には、手前みそだが、本連載の2本の記事が影響を及ぼしていると感じている。
1本目は、2018年7月9日掲載の「クラウド時代に“ユーザー企業に選ばれるパートナー”になる方法」だ。この記事では、当時のパートナー戦略を説明する日本マイクロソフトに対し、「すでにパートナー認定制度を展開し始めていたAWSジャパンと同様の取り組みを行う考えはあるか」を聞いたところ、「準備を進めている」とのことだった。この質問はすなわち、「日本マイクロソフトのパートナーエコシステムは、ユーザーオリエンテッドなのか」と聞いたつもりだ。
そして2本目は、2019年7月1日掲載の「ユーザーの心に響くパートナー施策とは――日本マイクロソフトの新たな取り組みは奏功するか」だ。つい2カ月前だがこの記事では、クラウド分野でパートナー企業と連携した新しい施策として日本マイクロソフトが6月に発表した「MPN(Microsoft Partner Network) for Industry パートナープログラム」を取り上げ、その中核となる業種別の「レファレンスアーキテクチャ」について解説した。
だが、この時も認定制度の話はなかったことから、1年前に聞いた「準備」の状況を尋ねてみると、「パートナー施策全体を今、新しい次元へ押し上げていこうとしている」とのことだった。従って、筆者はこの記事で「ユーザーから見てどうか」とだけ投げかけておいた。ちなみに、いずれの記事も筆者の質問に答えたのは、高橋氏である。
その高橋氏が今回、パートナー企業向けイベントで満を持して認定制度の開始を公表し、さらには認定取得を促した。もはやパートナー企業への説明はすでに終えていたのだろう。見方を変えれば「格付け」ともいえる制度だが、イベントでの来場者の反応は冷静なものだった。
実は、日本マイクロソフトは上記のイベントの2日前の2019年8月28日、パートナー戦略について記者説明会も開いたが、そこでは認定制度に触れず、図2に示した3つの取り組みを説明した。その1つ目の「お客さまの業種業態に最適な支援の推進」では、MPN for Industry パートナープログラムで、図3に示すように対応業種とレファレンスアーキテクチャをさらに拡充していく構えだ。
また、2つ目の「パートナービジネスモデルの変革」の話の中で、ビジネスユーザー向けに業種業態に特化したパートナーのアプリケーションやサービスを展開する「AppSource」や、開発者向けの「Azure Marketplace」を展開することも発表された。認定制度ではないが、これらもユーザーオリエンテッドな取り組みといえよう。
上記のイベントの基調講演後、高橋氏の側近である日本マイクロソフトの斎藤泰行氏(パートナー事業本部マーケティング戦略本部 本部長)に話を聞けたので、認定制度について単刀直入に「AWSジャパンに対抗できるものになったか」と聞いてみた。すると、同氏はこう答えた。
「少なくとも引けを取らない内容にしていけるとの手応えは十分に感じている」(斎藤氏)
少しは影響を及ぼした可能性のある本連載としては、こう締めておきたい。これは、ユーザーオリエンテッドなパートナーエコシステムを巡るクラウドビジネスの核心の戦いである。
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