このように業種別ソリューション展開に注力する日本マイクロソフトだが、クラウドによるプラットフォーム事業を主体としてきた同社が、なぜこれまで手掛けてこなかった領域に足を踏み出したのか。筆者なりにその答えを、今回の製造業向け事業の取り組みに関する会見から読み取ってみた。
今回の会見では、ゲストとして機械部品大手のTHKで取締役専務執行役員を務める寺町崇史氏が登場し、日本マイクロソフトおよびシステムインテグレーターの日本システムウエア(以下、NSW)との連携により、2019年7月に提供開始した製造業向けサービス「Ommi THK」について説明した。
その内容については発表資料をご覧いただくとして、寺町氏は3社の連携について図4を示しながら次のように説明した。
「THKはかねてNSWとOmmi THKの開発を進めてきたが、その過程で日本マイクロソフトも加わった。日本マイクロソフトにはクラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureの提供と技術支援、NSWには継続的なアプリケーション開発とサポートといった役割を担っていただき、サービスのさらなる向上を図っていきたい」
寺町氏が説明した3社の関係を日本マイクロソフトから見てみると、THKは顧客企業であり、NSWはパートナー企業となる。ただ、THKは単なるユーザーではなく、自らの顧客に向けてデジタルサービスを提供するというDXを推進しており、それを日本マイクロソフトとNSWが支援しているという構図だ。
つまり、顧客企業もDXによって新たなビジネスを推進する中で、日本マイクロソフトは業種別ソリューション展開によって業種ごとの「全体最適」を追求し、パートナー企業はそれを顧客企業の取り組みに落とし込んで「個別最適」を目指すといった役どころか。これこそ、「DX時代のビジネスエコシステム」のあるべき姿ではないか。日本マイクロソフトはそう捉えているというのが、筆者の見立てだ。
一方で、見方を変えれば、このビジネスエコシステムは、日本マイクロソフトが業種別ソリューション展開によって広げていく「マイクロソフト経済圏」とも見て取れる。これが日本だけでなく、グローバルで拡大しつつあるわけだ。
現在、巨大なデジタルプラットフォーマーとしてGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が注目されているが、Microsoftの業種別ソリューション展開は競合するメガクラウドベンダーも今回紹介した内容まで手掛けていないだけに、GAFAとは異なるスタンスでさらに巨大なデジタルプラットフォーマーになっていく可能性がある。
DX時代のビジネスエコシステムは、それを支えるデジタルプラットフォーマーの経済圏でもある。日本マイクロソフトは決してこんな表現は使わないだろうが……。そんなしたたかな思惑があるというのも、筆者の見立てである。
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