活用できていない社内データは48%。このデータに問題意識を抱くことがDX推進の第一歩IT革命 2.0〜DX動向調査からインサイトを探る

市場環境や顧客ニーズは目まぐるしく変化していくので、将来のビジネスへ向けて正しい意思決定をするにはデータが重要になります。データが社内でどのように扱われているか、インサイトを探りました。

» 2020年03月24日 08時00分 公開
[清水 博デル株式会社]

 本連載では、筆者らが実施した調査(注1)を基に日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現在地をさぐってきました。調査では「DX夜明け前」フェーズにとどまる企業が多数存在することが明らかになっています。そこで皆さんのDXを一歩進めるために、DXの本質やDXを推進する組織の特徴なども見てきました。

 第9回の今回は企業が蓄積する「データ」について見ていきます。デジタル化の進捗度合いと、把握しきれていない「ダークデータ」の蓄積量にはある一定の関係があることが分かりました。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

注1:「DX動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。


ダークデータはこれからも増え続ける

筆者の蔵書から。『推計学によるデータのまとめ方』(岩波書店、1950年)

 「ダークデータ」という言葉をご存じでしょうか。英語版のWikipediaによると、ダークデータ(Dark Data)は「さまざまなコンピュータネットワークにより得られたデータのうち、意思決定の洞察として使用されていないもの」と定義されています。企業が事業を継続していく上で重要な意思決定に役立っていない状態だといえます。

 日本でもさまざまなメディアや調査会社が、企業内のダークデータに関するショッキングなレポートが提出されていますから、何らかの情報に触れた方も多いの絵はないでしょうか。筆者は例えば「70%のデータが使用できていない」「役に立たないデータが90%以上もある」などというレポートを目にした経験があります。そこで今回のDX動向調査では、DXの進捗(しんちょく)状況ごとに企業内のダークデータがどの程度存在するかを質問しました。

 その結果、活用できていないデータの割合は全体平均で48%あるという結果が得られました。しかし、きちんと測定している企業はそれほど多くないと思われます。正確には大半の企業が、感覚的に「使われていないデータが4〜5割ぐらいある」と認識しているということです。

 2019年4月にデルとEMCジャパンが「Global Data Protection Index(グローバル データ保護インデックス)」の調査結果を発表しました。「2018年に日本企業が管理しているデータ量は88PB(グローバル:9.70PB)で、2016年の1.29PBから588%も増加している」ことが分かりました。1年でデータ量が倍増以上に拡大していると報告されたのです。調査対象の企業のデータは年々膨大になっているためため、無意味な(使われていない)データも年々増加し続けていることが想定されます。

 製造業を例に挙げて考えてみましょう。製造業においては、「モノ」の開発段階も、市場に投入したあとの工程も、いまやデジタルデータがあふれています。

 製品開発に付随する各種実験、検証データは精緻になればそれだけデータが肥大化、複雑化します。製品を構成する部品類の3次元モデルデータや開発レビューのプレゼンテーションなど、それ以外んもデータとして扱うものが指数関数的に増える状況があります。

 他方、出来上がった製品を市場で展開した後もたくさんのデータが生まれます。企業や製品、サービスの認知度を高めることを目的に、Webサイトへの来訪者を増やしたり、Webサイトから購買アクションにつなぐコンバージョンの数値を増やすには膨大なデータの解析が必要です。IoT(モノのインターネット)化が進むことで、製造業以外の業種においても、至る所でセンサーデータなどを活用するようになるでしょう。企業が扱うデータがさらに莫大になることは間違いありません。

ダークデータの埋蔵量 ダークデータの埋蔵量《クリックで拡大》

ダークデータへの問題意識がDX進捗の第一歩

 調査では次に、ダークデータ埋葬量をデジタル化の進捗レベルに分けて集計しました(注)。その結果、ダークデータ埋蔵量が多いと回答した企業が最も多かったのは、デジタル化が最も進んでいるはずの「デジタルリーダー」でした。次に多いと回答したのは、デジタル化で最も遅れている「デジタル後進企業」です。そのため、ダークデータ埋蔵量のグラフは、少し変形したU字型のグラフになっています。

 統計的なデータと言えるほどのインタビューはできていませんが、筆者はデジタルリーダーやデジタル後進企業に属しているIT部門の方々とこの結果について話しました。その結果、デジタルリーダーやデジタル後進企業のそれぞれに異なる背景があり、結果としてダークデータの埋蔵量が多いと認識されていることが分かりました。

 まず、デジタルリーダーの方たちはDXを強く意識しているわけではない、と筆者は考えます。デジタルリーダーに属する企業の皆さんは、デジタルを「DNAレベル」や「ネイティブレベル」と表現してもいいほど、自然な取り組みとしてあつかっていることが想像できるからです。

 デジタルリーダー企業は、あらゆる可能性を考慮してデータをビジネスに活用しようというマインドを持っていると考えられます。そのため、社内のデータをまだまだ分析し切れていないと考え、「データはまだ無限に活用できる」と答えたと想像できます。

 逆にデジタル後進企業は自社のデジタル化は進んでいないと自認しています。漠然とではありますが、データの大部分は手を付けられていないと考えて、「ダークデータがたくさんある」と答えたのだと考えられます。

 それよりも筆者が気になったのは、PoC(概念検証)から脱却できずにいる「デジタル評価企業」や、DX化への取り組みをまだ強めなければいけない「デジタルフォロワー企業」が全体平均と比べ、ダークデータはあまりないと認識していた点です。これらの企業は、ダークデータのことを問題意識として感じていない可能性があるかもしれません。この調査結果を見る限り、「社内のデータの半分が使われていない」ことを認識して活用する可能性を検討、議論していくことが、DX進捗の第一歩だと言えるのかもしれません。

新しいデータ収集は慎重に進めるべき

 データを活用としようと動き出しても、別の問題にぶつかります。データを保有することと価値があるデータを保有することは同義ではありません。社内のデータを調べ始めたところで、「社内には価値あるデータがないため、集め直す必要がある」と判断している企業が34.4%も存在するのはこうした事情が背景にあるものと考えられます。

ダークデータで再利用可能な割合 ダークデータで再利用可能な割合《クリックで拡大》

 例えば、CX(カスタマーエクスペリエンス)を高めようとしている企業は顧客のインサイトを得るためにデータを活用します。しかし、顧客の趣向や購買行動はどんどん変化するため、過去の顧客データを調査したところで、未来の顧客行動は予測できないかもしれません。では、価値あるデータとはどういったものでしょうか?

 冒頭に挙げた写真は、日本における品質管理、「QC活動」の父といわれるW・エドワーズ・デミング博士の著作です。1950年の本で、私の蔵書の中でも非常に古い一冊です。この本は、1954年から始まる高度経済成長期の日本において、データ分析(統計的手法)による品質管理を浸透させ、日本の製造業の生産性を高めたバイブルといえるものです。この中の一文に「(データで)科学的法則を確立するには繰り返された実験結果が必要」とあり、警鐘をならしています。本の内容は以下に要約されます。

  • データを集めても、関連する分野の知識が必要である
  • 繰り返し同一環境下で結果を導く必要があるが、(顧客)行動は偏見や気まぐれで決定されることもある
  • 一部分のデータだけを偏重しても、望むべき結果にはならない

 これからデータを集めるにあたりデミング先生のこの言葉を胸に刻んでおかなければ、価値のないデータばかり集め続けることになるかもしれません。ダークデータから価値を生む際には考えておくべきポイントでしょう。

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