ローコード開発ツール選びで押さえたい「3つの観点」――ガートナーが提言

ガートナーによると、ローコード開発ツールは「単なる開発ツール」ではなくなりつつある。こうした中、企業がローコード開発ツールを選定する際には、開発機能の詳細だけではなく、3つの観点で検討することが重要だという。それは何か。

» 2022年12月06日 15時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2022年12月1日、ローコード開発ツールの選定に当たって考慮すべき3つの観点を発表した。

 ローコード開発ツールは、グローバルで採用が進んでいる。ガートナーは、2025年までに企業が開発する新規アプリケーションの70%にローコードまたはノーコードテクノロジーが使用されるようになるとみている。日本でもITリソースやスキルを持った人材が慢性的に不足する中で、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展によって急拡大しているデジタル化のニーズに対応するために急速に導入が進んでいる。

ローコード開発ツール選びに必要な「3つの観点」

 ガートナーには、多くの国内企業からローコード開発ツールの選定に関して「何をどう選定してよいのか分からない」「選定後に機能不足や運営上の課題が顕在化する」といった相談が寄せられている。

 同社によると、ローコード開発ツールを選定する際には、要件を適切に策定するため、開発機能だけに注目するのではなく、以下に挙げる「3つの観点」から事前に考慮することが重要だ。

1. 採用する目的とビジネス成果を明確にする

 ローコード開発ツールを適切に選定するためには、どのような目的のために、あるいはどのような問題を解決するために利用するのかをまず考慮する必要がある。目的を明確にすることで多くの企業が選定に当たって抱える「効果があるのか」という悩みや、適用後の「効果が分からない」といった状況を回避できる。

 ローコード開発ツールを利用する際の主な目的は「人材不足の解消とデリバリースピードの向上」「デジタルによるビジネス変革」「ビジネスの自動化と働き方改革」「アプリケーションの俊敏性向上」の4つだ。ビジネス効果としてはリードタイムの削減やデジタル収益の拡大、残業時間の削減、顧客満足度の向上などが期待できる。

2. 具体的なユースケースを検討し、選定上の重点を見極める

 具体的なユースケースを検討することで、選定する際に何を重視すべきかが見えてくる。

 最近はDXに取り組む中で新しいテクノロジーを活用することによって、業務の自動化や連携、インテリジェント化による省力化を図る観点からローコード開発ツールを適用するケースがある。また、内製化のニーズが高まる中でローコード開発ツールが適用される例や、アプリケーションの近代化、自動化に向けたビジネスプロセス管理(BPM)、ケース管理、市民開発などで必要とされる例が増えている。

 ガートナーによると、ローコード開発ツールを市民開発に適用する際は、「IT以外の専門家である部門ユーザーが『自分でも使える』と感じられる容易性が実現されているかどうか」が重要だ。また、属人化やブラックボックス化を防ぐと同時に、成果物の適切な共有や流通のためのガバナンス機能、セキュリティ、企業としての業務の正当性を確保するためのコンプライアンス機能なども求められる。

 これらはローコード開発ツールだけではカバーできない部分も多いため、各種ツールと組み合わせるとともに、Center of Excellence(COE)などの組織やレビュープロセス、ルールなどを、適用の規模や利用者の成熟度を勘案しつつ整備する必要がある。

 一方、ビジネスユーザーには、高度なプログラミング知見を持つパワーユーザーが存在することも考慮する必要がある。パワーユーザーには、スキルレベルに応じた開発機能を提供することが望ましいため、「パワーユーザーと一般のビジネスエンドユーザーが使うツールを分けるか、同じにするか」といった意思決定が必要となる。また、パワーユーザーは「企業全体の市民開発者コミュニティーを形成する際にリーダー的な役割やIT部門との橋渡し役を担ってもらうべく、市民開発推進の当初から緊密なコミュニケーションをとって信頼関係を構築することが望ましい」としている。

3. アプリケーション自動生成以外の幅広い機能を多角的に捉え、用途に合った範囲で活用する

 ローコード開発ツールは、その名前から来るイメージのせいか、「単なる自動コーディングツールとして限定的な視点で捉えている企業も散見される」とガートナーは指摘する。

 ローコード開発ツールは、コーディングを抽象化することに主眼を置いていると同時に、AI(人工知能)による開発支援機能が追加されるなど、開発の高度化が図られている。開発にとどまらず、テストやデプロイに至るまでの開発プロセスの自動化率の向上といった多様な領域を単一の製品でカバーしたり、マーケットプレースを備えてテンプレートや業務部品の品ぞろえを充実させたりしている。

 ローコード開発ツールは、単なる開発ツールというよりも「アプリケーションを構築する上で必要な構成要素全てに対する開発や実行、運用管理の機能を包括的に提供する統合プラットフォーム」としての色合いを強めている。そのため、採用する製品の検討も多角的に実施する必要があり、この点は投資対効果を勘案する際の重要なポイントになる。

ローコード開発ツールを多角的に検討する(出典:ガートナーのプレスリリース)

 一方、ローコード開発ツールで開発機能以外の領域の機能を活用する際には注意点もある。統合機能にはiPaaS(Integration Platform as a Service)、BPMやケース管理にはBPA(Business Process Automation)ツールなど、各領域には専門ツールが存在する。こうした開発以外の機能を活用したい場合は、「それらの機能が必ずしも専門ベンダーが提供するツールの機能性と同等ではないことも理解しておく必要がある」とガートナーは指摘する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ