Scenarioとオファリングおよび製品・サービスとの関係性は、三層構造からなる(図3)。下層に位置する製品・サービスを顧客ニーズに応じて組み合わせたものが、中層に位置するオファリングだ。オファリングにはIT構築系やコンサルティング系、運用面でのリカーリング(継続課金)系などがあり、それらを顧客企業の経営課題の解決に向けたDXの取り組みシナリオに適用していく形で、上層のScenarioを構成するイメージだ。
ただ、この三層構造はあくまでもScenarioの構成を示したもので、製品・サービスやオファリングを顧客ニーズに応じて提供する形は、従来から変わらない。
Scenarioの内容を具体的に示したのが、図4だ。左側に提示された顧客課題に対し、Scenarioのグループと個別の名称が付けられた内容が記されている。「社会とビジネスのイノベーション」という課題に対しては、個別のScenarioとして「データ利活用によるデータドリブン経営の実現」「Digital IDによる安全で快適な新しい体験の提供」などを用意している。
岡田氏によると、「Scenarioについては、現時点で5つのアジェンダに対して8つの取り組みを整備しており、今後もお客さまのニーズに応じて拡充する。Scenarioの事業推進についても現在はおよそ400人の専門組織が中心となって進めているが、今後は各業種の事業部門でもScenario作りを担う体制を整備する」とのことだ。
今回のScenarioの話は、NECの顧客に限らず、DXに取り組む企業にとって大いに参考になるだろう。とりわけ筆者がScenarioに着目したのは、冒頭で述べたように、DXをうまく進めるためには「目指す姿を描き、それに向けてDXを進める」ためのシナリオ作りが不可欠だからだ。
その意味では、図4を見て感じることがあった。それは、DXの「D」はNECのようなデジタル技術のスペシャリストであるベンダーから支援を受けるとしても、ビジネスやマネジメントの「X」の核心部分は、DXに取り組む当該企業でなければ分からないし、ましてやそこを変革するのはその企業にしかできない。従って、例えばNECの知恵を借りるとしても、DXのシナリオは自社で主導するという強い覚悟と姿勢、そして実行が必要だと筆者は考えている。
もう一つ気になるのは、さまざまな企業におけるDXの取り組みを取材する中で、その進捗とともに「期待ほど効果は出ていない」という声を耳にすることが増えているように感じる点だ。関連の調査レポートを見ても、DXの着手率は上がってきているが、進捗や効果についてはまだまだ途上、むしろ苦労しているという印象が強い。筆者は効果を出すための勘所は、まさしくシナリオ作りにあると見ている。今回のNECの話が、多くの企業のDX推進を後押しすることを期待したい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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