今回の発表の目玉といえるビジネス変革のためのAIは、業界固有のプロセスに特化したAIソリューションの他、製品・サービス、顧客接点、ビジネスプロセス最適化、人材管理、サプライチェーン、日常業務といった主要なユースケースに最適化されたAIソリューションを提供するものだ。川上氏によると、「IBMがこれまで業務改革のコンサルティングやソリューションにおいて手掛けてきた分類を基に、企業がビジネスを変革するために必要な7つのコンポーネントを用意した」とのことだ。各コンポーネントの要点は次の通りだ。
図3は、デジタル変革のためのAIソリューションにおいてそれぞれの領域で具体的に利用できる製品やサービスを記したものだ。この中には、戦略パートナーの製品・サービスも含まれている。例えば、ビジネス変革のためのAIでは、顧客接点のためのAIとしてAdobeやSalesforce、サプライチェーンのためのAIとしてSAPの社名が入っている。
日本IBMは今回の発表で、ビジネス変革のためのAIにおいて、インダストリーのためのAI領域から宮崎銀行、インダストリーおよび製品・サービスのためのAI領域から京都大学大学院、人事管理およびビジネスプロセス最適化のためのAI領域からパナソニックグループの3つのユーザー事例を紹介した。
宮崎銀行は、IBMが提供する「DSP生成AI拡張機能」により、属人的で業務負荷の高い融資稟議書作成業務時間の95%削減と標準化を実現した事例だ(図4)。
京都大学大学院は、IBMが提供する「難病情報照会AIアプリケーション」により、信頼性の高い難病情報の紹介を簡便に行って専門医につなげることで、これまで時間を要していた難病の診断・治療の早期化を支援している事例だ(図5)。
パナソニックグループは、IBMが提供する「ワンストップ人事サービス」により、生成AIを活用し、セルフサービスによる自己解決から人事担当者によるきめ細やかな有人対応まで提供する。安心感や温かみのある人事サービスで、人事業務の効率化および従業員体験の向上を実現した事例だ(図6)。
筆者は、投資対効果が不明なユーザー事例については、PR色が強いので記事では基本的に取り上げないことにしているが、生成AIについてはさまざまなユースケースを共有することが今は最も重要だと考えるので、上記の3つの事例も紹介しておく。それぞれ課題と期待される成果・展望をすり合わせることで気付きがあるかもしれない。
最後に、ユーザーの視点として、図1で取り上げたビジネス価値創出を全社に広げるためには3つのポイントがあることと、図2で取り上げたビジネス変革のためのAIとしては7つの領域に取り組む必要があることを改めて強調しておきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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