「さまざまな業務や業界向けのAIエージェントを提供するためには、それらをスムーズかつセキュアに連携して管理し活用できるプラットフォームが必要になってくる」
こう語った福田氏は、「AI-Centric ICTプラットフォーム」と銘打ったAIエージェントの活用を支えるプラットフォームの必要性を訴え、「このプラットフォームを推進することが、当社にとって根幹のビジネスになる」と強調した。図5が、その全体像だ。
図5を見ると、AI-Centric ICTプラットフォームとしては下段に描かれているNTTの次世代ネットワーク「IOWN」をはじめとしたネットワークソリューションも含まれている形だが、筆者が注目したのは中段に描かれている赤色の背景の「AI Agentプラットフォーム」だ。
企業がAIエージェントによって業務全体で生産性向上や自動化といった効果を出すために、マルチベンダーのマルチエージェントをオーケストレートするプラットフォームの必要性が、今後高まるのは必至だ。プラットフォームについては、さまざまな業務アプリケーションを展開するソフトウェアベンダーをはじめ、そうした仕組みのインテグレーションに強みを持つITサービスベンダー、そして巨大なクラウド基盤を持つハイパースケーラーなどの間で主導権争いが繰り広げられようとしている。
NTT Comの今回のアクションによって、NTTグループもこの激戦市場に参戦するのか。NTT Comの説明によると、AI Agentプラットフォームでは今のところ同社のAIエージェントが対象で、マルチベンダーには対応していないようだが、それもユーザーニーズがあれば業界標準の連携技術を適用して対応できるようになるだろう。NTT Comの今回のアクションを起点にNTTグループ全体としてAIエージェント注力する形になれば、市場に相当のインパクトがあるのは間違いない。
ただ、この観点で気になるのは、ITサービスベンダーの最大手で間もなくNTTの完全子会社となるNTTデータグループもAIエージェント事業に注力していることだ。同グループの国内事業会社であるNTTデータは、2024年10月に「SmartAgent」と銘打ったAIエージェントソリューションを発表し、国内ではいち早くAIエージェント市場に参入した。その動きについては2025年1月20日公開の本連載記事「NTTデータは『AIエージェント活用の“次のステージ”』をどう見るか? AI事業のキーパーソンに聞く」を参照していただきたい。企業への導入形態については違いがあるものの、プラットフォームの方向性については同じといっていいだろう。NTTグループとして将来に向けて総力を結集するならば、何らかの対応が必要になるはずだ。
ここにNTTグループとしての課題を感じたので、会見の質疑応答で、今後の方向性について聞いた。すると、福田氏は次のように答えた。
「NTTデータとはこれまでの成り立ちや事業領域が異なっているので、現状では競合するような事態になるとは考えていないが、将来的にはNTTグループとして総力を結集することが重要なので、統合などが必要ならば迅速に対応する」
先にも述べたが、NTTグループが総力を結集してAIエージェント事業に注力すれば、市場に対して相当のインパクトがあるだろう。一方で、大再編したNTTグループが本当に総力を結集できるかどうかを推し測る上で、AIエージェント事業の行方は格好の判断材料になりそうだ。今後の動きを注視したい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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