連載
» 2000年06月02日 12時00分 公開

@米国IT事情(3):音楽業界を震撼させるNapsterの可能性
ユーザーと直接つながることが可能に

 全米で大きな物議を醸しているMP3音楽ファイルの交換ソフト「Napster」は、音楽業界のみならず、ポータルサイトを含んだネットビジネスモデルを大きく変革するものとして注目を集めている。著作権を侵害するとして複数の相手から提訴されているNapsterは、現在ベータ版にもかかわらず口コミだけで数百万人のユーザーを抱えている。

[長野弘子,@IT]

個人のPCがサーバーに早変わり

 Napsterのユニークな点は、中央サーバーにコンテンツを置く必要がなく、他人のPCから自由に音楽をダウンロードできる点だ。使い方は、約1.5MBの同ソフトをNapsterサイト(www.napster.com)からダウンロードし、名前や郵便番号、年齢、年収などを記入してユーザー登録を済ませる。あとはお気に入りのアーティストを検索するだけ。Napsterが他のユーザーのPCに置かれた楽曲を探してリストアップし、ユーザーは気に入った楽曲をクリックすれば自分のPCにその楽曲がダウンロードされる。画面の下方では、現在のNapsterユーザー数とダウンロード可能なMP3ファイル数が表示されており、夕方にはMP3ファイル数が100万件近くになることもある。

 また、同ソフトには自分の興味のある音楽ジャンルに関する情報交換が簡単にできるチャット機能、再生プレイヤーもついている。つまり、このソフトを使えば他のサイトを訪れることなくありとあらゆる音楽が無料で入手できるのだ。

音楽業界はパニック 大学はNapster禁止令

 Napsterの登場は、音楽業界をパニックに陥らせている。それは、交換されているMP3ファイルの多くが違法コピーだからだ。昨年末から今年にかけて、全米レコード協会(RIAA)、ロックバンドのMetallica、ラップアーティストのDr.Dreは、著作権法に違反するとしてNapsterを立て続けに訴えた。損害は1億ドル以上におよぶと主張するRIAAは、不法に配信された楽曲1件につき推定総額10万ドルもの賠償金の支払いを求めており、MetallicaはNapsterユーザーの多いイエール大学、インディアナ大学、南カリフォルニア大学も同時に訴えるという強行手段に出た。このため、まずイエール大学が同ソフトを禁止、続いてオレゴン州立大学も大学の帯域幅の20%を占有しているという理由で同ソフトを禁止した。南カリフォルニア大学は、当初は禁止しないという方針だったが、最終的には禁止へと変更。現在、全米で70校以上の大学が禁止方針を打ち出すまでになり、社会問題化している。

 Napsterは、「自社サービスでホストするコンテンツに関してサービスプロバイダには責任がない」というISP向けの法的保護が自社にも適用されると主張し、略式判決の請求を行っていたが、結局この請求は退けられた。その後、同社はMetallicaおよびDr.Dreの要求を受け、30万人以上のユーザーを著作権侵害者としてサービスから閉め出してユーザーの怒りを買っている。

投資家にとってはキラーアプリ

 窮地に追い込まれたNapsterだが、提訴後間もなくベンチャーキャピタル(VC)機関のHummer Winblad Venture Partnersから1500万ドルの出資を受け、世間を大きく驚かせた。投資家は、Napsterを音楽業界を脅かす悪の権化ではなく、コンテンツの共有手段を変革するキラーアプリとしてとらえている。

 それもそのはず、Napsterを使えばコンテンツ提供者は大手ポータルや音楽サイトに頼らずにユーザーと直接つながることができる。つまり、バナー広告に巨額を費やして大手サイト経由でユーザーを呼び込むプロセスを大幅に省略できるのだ。検索サイトと比較しても、検索ロボットが新しいサイトを追加するには数週間から数カ月の期間がかかるが、Napsterを使えばこのタイムラグがいっさいないので、コンテンツをダウンロードする側にとっても効率的だ。

 現在、あらゆるデータファイルをMP3ファイルとして扱うことでNapsterを拡張する「Wrapster」と呼ばれるソフトが出回っている。これを使えば、音楽ファイルだけではなく映画やソフトウェアなど、ありとあらゆるコンテンツが大手サイトを通さずに共有または交換できる。また、Gnutellaなどこれに類似したファイル交換ソフトが次々と登場しつつある。現在のところ、帯域幅の問題から映画のダウンロードは現実的ではないが、ブロードバンドの普及とともに交換されるファイルの種類は大幅に拡大するものと予想される。

必要とされるデジタル著作権管理

 Napsterは投資後、大学を中退して同社を設立した19歳のShawn Fanning氏に代わり、同VC共同経営者の一人であるHank Barry氏を暫定CEOとして、本格的な事業運営に乗り出している。同氏は以前、A&M Recordおよびオンライン音楽配信企業のLiquid Audioで法律問題を担当、レコード業界の法律問題解決に関して定評がある。今後は、デジタル著作権管理(DRM)技術やEC機能、購読費の導入など、RIAAとの妥協案を積極的に打ち出すことが期待される。

Napsterと類似したファイル交換ソフトウェア
Gnutella 中央サーバーにアクセスせずにどんな種類のファイルでも匿名で交換できる。Napsterがユーザー間の橋渡し役として中央サーバーを必要とするのに対して、Gnutellaはユーザーがサービスを提供している別の人に直接接続するので中央サーバーは存在しない。AOLの開発者チームが3月にリリースしたが即座にサイトは削除。現在のソフトはその間ダウンロードされた1万件をもとに開発されたもの
Freenet Gnutellaと同様、中央サーバーにアクセスせずにどんな種類のファイルでも匿名で交換できる
iMesh Napsterと同様、他人のPCから自由にファイルをダウンロードできるが中央サーバーにアクセスする必要がある。MP3ファイル以外にも、音楽やビデオなどの幅広いマルチメディアファイルに対応している
Scour.netの「Exchange」 Napsterと同様、他人のPCから自由にファイルをダウンロードできるが中央サーバーにアクセスする必要がある。Miramax映画の予告編をオンライン配信する独占契約を結んでいる
Apple Soup NapsterやGnutellaと同様のファイル交換ソフトだが、アーティストが自分のコンテンツの配信、追跡、管理を行える。現在開発中で詳細は不明

Napsterを巡る動き
1999年12月8日 全米レコード協会(RIAA)、著作権侵害でNapsterを提訴
2000年3月14日 America Online(AOL)のSpinner/WinAmp音楽ソフト部門の開発者チームがGnutellaをウェブ上でリリース
2000年3月15日 AOL、Gnutella開発は同社とは関係のない個人的行為であると発表
2000年4月10日 Gnutellaのオープンソースコミュニティ(gnutella.wego.com)が開設
2000年4月13日 ロックバンドのMetallica、Napsterと大学3校(イエール大学、インディアナ大学、南カリフォルニア大学)を提訴
2000年4月14日 イエール大学、Metallicaによる提訴を受けてNapster禁止令を出す
2000年4月15日 「Napsterから手を引け」とのメッセージとともにMetallicaのサイトがハッキングされる
2000年4月19日 Metallica、被告のリストからイエール大学を削除
2000年4月20日 インディアナ大学、Metallicaによる提訴を受けてNapster禁止令を出す
2000年4月25日 南カリフォルニア大学、Metallicaによる提訴を受けてNapster禁止令を出す
2000年4月25日 ハードロックバンドのLimp Bizkit、無料コンサートツアーでNapsterと提携
2000年4月26日 ラップアーティストのDr.Dre、Napsterを提訴
2000年5月5日 連邦地裁判事、Napsterによる略式判決の請求を退ける
2000年5月10日 Napster、Metallicaによる要求を受け著作権侵害者として31万7377人を除名
2000年5月22日 Napster、Hummer Winblad Venture Partners他により1500万ドルの出資を受ける
2000年5月22日 米民主党指導者協議会のシンクタンク、Policy Instituteが議会に対して、著作権侵害者を追跡するための法律制定を求める
2000年5月24日 米下院小規模事業委員会、デジタル音楽配信に関する公聴会を開催。音楽交換ソフトの法的規制を検討するのはまだ時期尚早との見方が主流に

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