米国ネット広告最前線 〜リッチメディア広告からゲリラマーケティングまで〜@米国IT事情(6)

» 2000年09月06日 12時00分 公開
[長野弘子,@IT]
Online Advertising Forumのパネルディスカッション

 最近、Wall Street Journal紙などの各紙では、バナー広告の効果に関して疑問を投げかけている記事が目立つ。しかし、実際のところはどうなのだろうか? 8月15〜17日に行われたJupiter Communications主催によるネット広告会議「Online Advertising Forum」では、米国のネット広告市場は試行錯誤を繰り返しながらも、企業のマーケティングに欠かせない戦略の一部として定着しつつあるというのが一致した意見になった。ここでは、電子メールやリッチメディア、バイラルマーケティングなどのさまざまな広告形態、CPMやCPC、提携プログラムなどの売上モデル、ワイヤレスやPDA、インタラクティブTVなどの異なるプラットフォームでの広告配信に関して、最新の調査レポートや事例が紹介された。

急成長するネット広告、しかし問題も

 ネット広告調査会社のAdRelevanceの調査によると、1999年7月から2000年6月までに販売されたネット広告のインプレッション数は270%の成長率を見せ、ネット広告に出稿する企業も約3.5倍に増えているという。この大きな理由として、TVや雑誌広告に巨額な予算を費やしているCoca ColaやNikeなどの大手ブランド企業が、新規顧客の獲得や維持に大きな効果があるネット広告にも予算を費やすようになってきたことが挙げられる。Jupiterによると、ネット広告市場は2005年までに1999年の20億ドルから165億ドル市場に成長すると予測されている。

 しかし、ネット広告が増えることにより、ユーザーが受けるネット広告の数も急増するという問題が出てくる。2005年にユーザー一人当たりが受け取るネット広告は、1999年から倍増して1日で950件に上るようになる。このため、いくら広告のインプレッション数を増やしてもユーザーの注意を引くことができないという、オフライン広告市場と同じ問題に直面することが予測される。これにともない、広告費の支払い方式も1999年には全体の15%だったCPC(1000回のクリックで支払われるコスト)が大幅に伸び、2005年には30%を占めると予測される。

バナーを超えて:現実化するリッチメディア

MindArrowのリッチメディア広告のサンプル

 それでは、他社との差別化を図ってユーザーの注意を引くためには、いかなる方法を採ればいいのだろうか。その方法の1つとして、単なる静止画像ではなくビデオや音声が含まれたリッチメディア広告が急増しており、Jupiterでは2005年にはリッチメディア広告がネット広告の約2割を占めることになると予測している。しかし、広帯域ユーザー数がまだ少ないため、狭帯域向けのリッチメディアを開発している企業が大きく注目されている。

 例えば、「Superstitial」と呼ばれるリッチメディア技術を開発しているUnicastは、Flashベースの小容量ファイルでリッチメディアを実現している。Nikeでは、同社の技術を使用してネット広告キャンペーン「Chainsaw」を行ったところ、Nikeサイトへのトラフィックの50%がこの広告から来て大成功を収めた。また、RadicalMailやMindArrowは、RealPlayerやWindows Media Playerなどのストリーミングビデオ再生ソフトやプラグインを一切必要としない、音声、ビデオ、アニメーションを組み込んだリッチメディア電子メールを開発している。その他、BlueStreakやEnlivenは、ユーザーが参加できるインタラクティブバナー広告を開発している。

メール広告:新規顧客の獲得と維持

 また、Jupiterによると、ユーザーの78%が手紙や電話よりも電子メールで連絡されるのを好んでいるように、電子メールは顧客との関係を維持するのに重要なツールになっている。同社は、メール広告市場は、1999年の1億6400万ドルから2005年までには73億ドル市場になり、年間2680億件の広告メールが送られるようになると予測している。広告ネットワークのDoubleClick、24/7 Mediaなども次々とメール広告市場に参入しているほか、YesMailやNetCreations、FloNetwork、Digital Impactなどメール広告に特化した企業も登場している。

 この中でもDigital Impactは、ユーザーの購買傾向を予測して、それに応じたメール広告を配信している。例えば、あるECサイトの捨てられたショッピングカートを分析して、購入を途中で止めたユーザーに対して商品の割引メールを送ったところ、そのうち60%が商品を購入したという。また、年齢や性別などのユーザー層別に、配送費を無料にしたり、商品割引などのメール広告を送るなど、メールを使用したマーケティングテストも行っている。

バイラルマーケティングとゲリラマーケティング

AskJeevesのキャラクター「Butler」
Eisnor Interactiveが行ったAbout.comのゲリラマーケティング

 また、口コミでサービスがウイルスの感染のように広がっていくマーケティング方式である「バイラルマーケティング」の具体的な方法も話し合われた。例えば、音楽業界のためのネット広告を展開しているElectric Artistsは、音楽ファンが開設した歌手に関するコミュニティの会員となり、チャットや掲示板に積極的に参加していく。

 一方、ドットコム企業の知名度アップのために、人海戦術を使ったゲリラマーケティングも盛んに行われている。ドットコム企業のためにゲリラマーケティングを展開しているEisnor Interactiveは、TheStreet.com、CNET、MapQuest、About.comを含めた多数のドットコム企業をクライアントに持つ。About.comのキャンペーンでは、メッセージを書いたプラカードを持った人物を街角に立たせることにより、同サイトの認知度を大幅に高め、同サイトをトップ10サイトにするという快挙を果たした。また、自然言語によるQ&A方式の検索サイトAskJeevesは、同サイトの人物キャラクター「Butler」をニューヨークのMacy'sのパレードに参加させた。ネットキャラクターがMacy'sのパレードに登場したのは初めてのことであり、大々的に宣伝され、ユーザーの訪問数が3倍になったという。同社は、15%のマーケティングコストをゲリラマーケティングに費やしている。

iTV広告:料金はカタログ販売コストの約半分

WinkのiTV広告の一例:視聴者はリモコンでクリックするだけでビデオを購入できる

 インタラクティブTV(iTV)の広告に関しても、次々に新たな事例が出された。iTVのECソフトウエア開発を行っているWinkは、36局のTVネットワーク、900時間に及ぶ番組にWinkの技術を提供している。TV画面にWinkのロゴが現れるので、視聴者はリモコンのボタンを押すだけで、商品に関する詳細な説明を見て商品を買うことができる。このプラットフォームは、スポーツのスコアを見たり、最新の天気予報を見たりと、さまざまな用途にも使用できるが、特に、新製品の紹介などではユーザーの反応を調査できる。Winkを使用している広告のクリック率は40〜50%で、これらのクリック率はすべて記録されて次のマーケティングに使われている。

 また、フランスでデジタル衛星放送を提供しているTPSでは、1999年12月に開催されたF1レースでトヨタ自動車のiTV広告を流して大きな効果を上げたという。画面に「TOYOTAの自動車を見たいですか?」との表示が現れ、興味のある視聴者はクリックして、その自動車の詳細な情報を見ることができた。同社は、画面に現れる小さなポップアップスペース、バナー、ホスティングで料金を徴収しており、料金はカタログ販売コストの約半分という。

PDAマーケティング

 その他、Palm Pilotを使用したマーケティングも紹介された。ニューヨークやサンフランシスコ、シカゴなどの大都市に住む人々を対象にしたシティガイドサービスをPalmベースのPDAに提供しているVindigoでは、ユーザーがバーやレストランの情報を探すと、新発売のウオッカを使用したカクテルのレシピを表示したり、特定地域の近くにレコード店があった場合、その店舗の15%割引デジタルクーポンを提供している。ユーザーはVindigoのソフトウェアをダウンロードして、自分の現在いる場所(例えば12丁目と5番街など)をPalmに入力すれば、その近辺にあるレストランやレコード店、デパートなどの情報を得ることができる。現在、サービス利用者は12万5000人で、5都市にサービスを提供している。

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