「無料」サービスの生き残る道は? 〜 ドットコム・バブル崩壊後、有料化へと進む 米国ネット市場 〜@米国IT事情(10)

» 2001年01月17日 12時00分 公開
[長野弘子,@IT]

 いよいよ新世紀を迎えて新たな時代に突入したわけだが、ネットを取り巻く環境も急速に進化しつつある。米国では、ニュースなどのコンテンツやデジタル音楽ファイルから、Webアプリケーション、サーバ・スペース、DSL接続サービスにいたるまで無料サービス企業が次々と登場したが、ネット・バブルの崩壊により、これらの企業のほとんどが危機的状況に陥っている。バブルがはじけて、広告のみを収入源とした無料サービスは終えんを迎えるのだろうか。それぞれの分野を振り返りながら、これからのネット企業の生き残りの方向性を探ってみた。

コンテンツ・サイトの生き残る道

 ネット・バブルの崩壊後、一時は脚光を浴びたSlateSalonTheStreet.comなどのコンテンツ・サイトはいずれも財政難に陥っている。この理由には、ドットコム企業からの広告売り上げの減少もあるが、最大の理由は、ベンチャー・キャピタル(VC)からの投資やIPOによる資金調達が得られなくなったため、サービスの維持が困難になったことが挙げられる。

 Forrester Researchの調査『The Content Site Turnaround』によると、コンテンツ・サイトの80%以上は損失を計上しており、事業を立て直すためには、合併やレイオフによる再編やビジネス・モデルの大きな変換を迫られているということだ。

 2000年に報じられたニュースを振り返ると、同年7月にはウェブジンのパイオニア的存在であるFeed MagazineSuck.comが合併して社名をAutomatic Mediaに変更、Alt.Cultureなどのコンテンツ・サイトの買収に乗り出している。

 また、同月、犯罪ニュースを専門とするウェブ出版社APB Onlineが、資金調達を行ったにもかかわらず倒産を申請し、11月にはTheStreet.comが20%の人員削減を行い、12月にはSalonが予算を20%削減するため従業員をレイオフしている。

 2001年に入ってもこの傾向は続き、2000年の最初の9カ月間で4620万ドルの損失を計上していたNew York Times Digital(NYTD)は、2001年1月7日に社員数の17%にあたる69人を解雇することを発表、豪News Corp.もまた同社のデジタル部門を閉鎖し、同部門の250人の社員を解雇する計画を発表している。

 このような状況の中、生き残りをかけてウェブ出版社はコンテンツの有料化に乗り出している。すべての読者に購読料を請求しているWall Street Journal(WSJ)は数少ない成功例の1つだが、TheStreet.comでは、一般的な経済ニュースを無料提供し、投資家向け情報は月額20〜40ドルを請求するという有料化モデルを導入している。NYTDは過去の記事に対して課金したり(図1参照)、モバイル・ネット向けに記事の音声読み上げサービスを有料化したりしている。

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図1 New York Times Digital(NYTD)の過去の記事アーカイブ・ページ。2.50ドルで記事1本を閲覧できる。マイクロペイメントにはQpassの技術を採用

 しかし、ネット上には無料のコンテンツが溢れているので、コンテンツの有料化はよほど価値ある情報を提供できないと難しいだろう。以前は購読料を徴収していたSlateは、購読者数の不足から、無料サービスに切り替えている。

 そのほかにも、コンテンツにEC機能をリンクして収入を上げたり(記事参照:第7回 コンテンツをコマースに変えるASP企業)、ユーザー側にはコンテンツを無料で提供するがポータル・サイトなどにコンテンツを販売することで売り上げを得たりするシンジケート・モデルなどにより、売り上げ収入の多元化を図ることが必要だろう。

無料音楽サイトの生き残る道

 音楽の無料ダウンロード・サイトもまた、音楽業界の強大な圧力によりビジネス・モデルの大幅な変更を迫られている。一大ブームを巻き起こした無料音楽ファイル交換ソフトのNapsterは、1999年12月には全米レコード協会(RIAA)から提訴され、2000年4月にはロック・グループのMetallicaからも提訴された。同年7月に出された仮停止命令でサービス停止を余儀なくされた同社は結局、音楽業界に逆らうのではなく、歩み寄りの姿勢を選択した。

 現在、4600万人のユーザーを抱えるNapsterは、2000年10月31日、同社を提訴したBMG Entertainmentの親会社である独メディア大手Bertelsmann AGとの提携を発表、有料サービスとして生まれ変わることになった。世界を震撼させたこのニュースで、同社はこれからユーザーに5ドル前後の月額料金を課すことを発表、無料音楽ダウンロード時代は幕を閉じた。Bertelsmannは5000万ドルを同社に融資し、ほかの大手レコード会社にもこの提携に参加するように呼びかけている。

 音楽業界による圧力は、Napsterだけではなく、ほかの無料音楽サイトにも押し寄せている。シネマ版NapsterであるScourは、2000年7月にRIAAや米映画協会(MPAA)から提訴され、同年12月にはサービスを停止するにいたった。

 音楽をデジタル保管するロッカー・サービス「My.MP3.com」を提供しているMP3.comもまた、2000年1月に提訴され、同年5月に多額の賠償金と和解金の支払いを命じられた。同社はその後、音楽大手各社と和解、同年12月にMy.MP3.comを再開するが、今後はロッカーにCDを25枚以上保存すると料金を請求するよう方針を変更している。

 今後も、Gnutellaなどの無料のファイル交換サイト(図2参照)に人気が集まることが予想されるが、こうした企業もまた音楽業界からの激しい訴訟攻撃に遭い、最終的にはレコード会社のお墨付き有料サイトでないと事業を維持できないようになるだろう。

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図2 Gnutellaの日本語サイト(http://japan.gnutellaworld.net/):世界的な現象になっているGnutellaだが、音楽業界から訴えられるのも時間の問題?

 例えば、音楽の保存ロッカー・サービス技術を開発しているMusicbankは現在、まだベータテストの段階だが、5大レコード会社から認可されており、将来が大きく期待されている。

無料インターネット・サービスの生き残る道

 米国では、大手インターネット・サービス企業10社のうち、無料サービス企業が半数を占めており、Urban MediaBroadband Digital Groupなどの無料ブロードバンド企業までが登場している。しかし、これらの企業もまた、バブル崩壊のあおりを受け財政難に陥っている。

 2000年だけでも7月に無料ISP企業のWorldSpyが廃業、10月末にはFreei Networksが倒産手続きを行い、11月にCMGIの傘下にあった1stUp.comが業務停止を発表した。同社は、Excite、Lycos、AltaVistaなどのポータル各社に無料サービスを提供していたので、これらのポータル各社は無料のインターネットアクセスを打ち切らざるを得なくなった。

 また、YahooやKmartにサービスを提供していたSpinway.comも11月に無料インターネット接続サービスの中止を発表したが、Kmart傘下のBlueLight.comが同社資産の買い取りにあたったので、かろうじて業務停止はまぬがれている(図3参照)。

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図3 Spinway(www.spinway.com)のWebサイトに行くと、Kmart傘下のBlueLight.comページに切り替わる。一方、1stUp.comのサイトはもはや存在しない

 1stUp.comとSpinway.comはそれぞれ400万人の加入者を抱えており、これらの企業の破産は無料インターネット・サービス分野に大きな衝撃を与えた。両社にサービスを提供していたホールセール向けダイヤルアップ・サービス企業のZipLinkもまた破たんに追い込まれ、無料サービスが事業として成り立たないことを証明するものとなった。

 こうした状況により、インターネット・サービス企業もまた生き残りをかけて、有料化への移行を急いでいる。600万人の加入者を抱える最大手のNetZeroは今年に入り、アクセス時間が40時間を超えたユーザーは追加料金を支払うように方針を変更した。400万人近くの加入者を抱えるJuno Online Servicesもまた、以前から有料サービスへ乗り出していたが、今後は無料ユーザーにはアクセス条件を悪くするなどして有料サービスへの転換を促していく。

 Spinway.comを引き継いだBlueLight.comは、無料サービスを毎月25時間に制限し、今後は同サイトで買い物をしたユーザーにだけ無料サービスを提供する計画を立てている。

そのほかのサービス企業も例外ではない

 そのほかにも、ネット上には、アドレスブックやカレンダーから、パーティ招待状、ホームページ作成、コンピュータ進呈、ECサイトの構築にいたるまで、ありとあらゆる無料サービスが溢れているが、こうした企業もまた例外なく深刻な財政難に陥り、急速な方向転換を迫られている。

 例えば、グループウェアを無償提供していたHotOffice Technologiesは、PC MAGAZINEの『エディターズ・チョイス』に選ばれた数カ月後の2000年12月に倒産した。

 Yahoo! に45億ドルで買収されたGeocitiesのように、一時は脚光を浴びた無料ホームページ作成サイトもまた、現在、厳しい状況に陥っている。これらの企業は独立した形態でビジネスを運営することは難しく、ポータル・サイトや大手のネット企業に買収されるしか生き残る道はないだろう。

 ところが、ポータル・サイトもまた、株価の低迷から財政難に陥っており、多くの企業を買収する可能性は低いといっていい。ポータル・サイト各社は、少しでも多くの収入をユーザーから得る方向に向かっており、例えば、Yahoo! は2001年に入り、オークションの売り手に対してアイテムごとに2.25ドルを徴収する計画を発表した。Microsoft Networkもまた、長距離通話や株式情報などのプレミアム・サービスでユーザーからお金を集めることに専念している。

 ユーザー側からすれば、無料サービス企業が消えていくのは多少残念な気もするが、ネットを取り巻く環境を長期的に見てみると、この動きは積極的に評価していい。過熱気味だったドットコム・ブームが収まり、これからはネット企業が社会やビジネスの主流に取り込まれ、営業利益を出すことのできるネット企業だけが生き残るという新段階に突入しているということである。VCの手を離れて、淘汰の過程を生き残ったネット企業がいよいよ自立する時期が来たといえよう。

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