急増するインターネットのビジネスモデル特許 Amazon.comのボイコットの理由にも@米国IT事情(4)

» 2000年07月08日 12時00分 公開
[長野弘子,@IT]

 英国の電話会社、British Telecom(BT)が14年前に取得したインターネットの「ハイパーリンク」技術に関する米国の特許にもとづき、米国のISPに対してライセンス料を徴収するかもしれないというニュースが世間を騒がせている。Webサイトのリンクにライセンス料を課すというのもバカバカしい話だが、現在、米国のドットコム企業の間では、この話をあながち笑えないような問題が起きている。それは、ネットビジネスに特有の「ビジネスモデル特許」に関するものだ。

急増するビジネスモデル特許

 ビジネスモデル特許とは、従来のような新技術の発明や開発に対して認定される特許ではなく、ビジネスの進め方やそれに関わる技術に対して認定されるもので、1998年以前は正式な特許としてはほとんど認められていなかった。

 しかし、連邦控訴裁判所が1998年7月にミューチュアルファンドの管理運用システムに関する特許を支持する判決を下して以来、事実上、ビジネスモデル特許が認められた。同年8月にはPriceline.comによるユーザーがホテルや飛行機の希望料金を指定する「リバースオークション技術」、また、Amazon.comによるECサイトでの商品購入に際してユーザーがマウスを1クリックするだけで必要事項を購入フォームに再記入できる「ワンクリック技術」がビジネスモデル特許として認定され、全米中の注目を集めた。

 特に、ビジネスモデル特許はドットコム企業により多数申請されており、米国特許商標庁によると、インターネット関連の特許数は1995年の165件、1996年の371件、1997年の648件から、1998年には2193件、1999年には3000件近くへと急速に膨れ上がっている。

▼(注)「business method(process) patent」の日本語訳として「ビジネスモデル特許」「ビジネスプロセス特許」の2つが存在しますが、本稿では「ビジネスモデル特許」に統一させていただきます

増えるビジネスモデル特許をめぐる訴訟

 しかしその後、これらのビジネスモデル特許を盾に取り、競合他社を提訴するドットコム企業が続出した。たとえば、1999年10月13日、Pricelineは同社のリバースオークション特許を侵害したとして、競合他社であるMicrosoftのExpediaを訴えた。また、1週間後の10月21日には、Amazonが同社のワンクリック特許を侵害したとして、Barnes & Nobleを提訴。その他にも、Coolsavings.comがデジタルクーポンシステムをめぐり競合他社のBrightStreetほか数社、FantasysportsがYahoo!ほか数社を提訴している。

 さらに悪いことに、自社の提携企業がビジネスモデル特許を侵害しているとみなされた場合にも、共犯として提訴されるケースがある。1999年3月23日、オンラインオークションのeBayは、eBayが使用しているサードパーティのソフトウェアがNetwork Engineering Software (NES) の特許を侵害しているという理由で提訴された。インターネットでは無数の企業が密接に結びついているので、これではどこにいても訴訟の恐怖がつきまとうことになる。

解決策を模索する米インターネット業界

 こうした状況に対して、多くは批判的な見方をしている。これらのビジネスモデル特許の多くは、特許認定に必要な条件である「先行技術」に当てはまらない単なるビジネスモデルであるケースが多く、競合他社を提訴することで競争を抑制し、インターネット市場全体にとって成長のスピードが遅れる可能性があるからだ。さらに、特許の調査や認定プロセスに時間とコストがかかるのも、新興企業にとって大きな負担になる。1999年12月、ビジネスモデル特許をめぐる訴訟でAmazonがBarnes & Nobleに勝訴したのをきっかけに、こうした状況に対する不満が爆発した。Linux OS開発者の1人でオープンソースの代表者でもあるRichard Stallman氏は、同社のボイコットを呼びかけて1万人の署名を集め、米技術系出版社O'ReillyのTim O'Reilly社長兼CEOはオンライン上で公開抗議文を発表した。高まる批判に応えて、AmazonのCEO、Jeff Bezosは3月9日、特許問題に対するオンライン公開書簡を発表した。同氏はこの中で、現行で17年の特許有効期間を3〜5年に短縮すること、また、特許申請された技術やビジネスモデルが特許認定の必要条件である「先行技術」であるかどうかを確実に確かめる方法を確立するなど、問題の解決に向けた具体的な提案をいくつか行っている。また、5月には米国情報技術工業会(ITAA) が「先行技術」の基準を確立するためのプログラム策定に向けてようやく動き出した。

 米国特許商標庁によると、米国の特許売上は1980年から1993年には30億ドルから600億ドルに膨れ上がり、1997年には約1000億ドルに急増しているという。また、世界で3万件以上の特許を持つIBMの特許売上は10億ドル以上にものぼっている。今後、ビジネス戦略の中核部分としてさらに重要度が増すとされる特許だが、その中でも特に急増しているビジネスモデル特許に対する認定基準の確定が急務だろう。

ビジネスモデル特許の例

企業名 企業概要 特許取得日
特許の内容

OpenMarket EC技術開発企業 1998年3月3日
ECサイトのリアルタイムによる安全な支払いシステム、電子ショッピングカート技術、デジタル注文書や受領書の発効、ユーザーのコンテンツ閲覧分析技術

Netcentives オンライン報酬サービス 1998年6月30日
デジタル注文書や受領書、カタログのオンライン配信管理技術

Priceline.com ホテル/飛行機の予約サイト 1998年8月11日
ホテルや飛行機の希望料金をユーザーに指定させる「リバースオークション」技術

Amazon.com 大手ECサイト 1998年8月11日
ECサイトで商品を購入する際、ユーザーはマウスを1クリックするだけで必要事項が購入フォームに再記入される「ワンクリック技術」。あるサイトが別のECサイトの商品を販売し、商品が売れたら手数料を受け取る「顧客紹介システム」

CyberGold オンライン報賞サービス 1998年8月11日
ユーザーがオンラインで広告を見たり特約プログラムに参加した場合、現金やポイント、飛行機のマイレージなどの報賞を獲得するプログラム

Egghead.com コンピュータ製品ECサイト 2000年6月7日
流通パートナーのデータベースにユーザーの注文状況に関するクエリーを送り、注文の状態を確かめてからユーザーに自動的に電子メールを送信する技術

参考資料Tim O'Reilly社長兼CEOがAmazon.com CEOのJeff Bezosに宛てた抗議文

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