連載
» 2000年10月05日 12時00分 公開

@米国IT事情(7):コンテンツをコマースに変えるASP企業 〜ECのすべてのプロセスをパッケージ化して提供〜

[長野弘子,@IT]

 もし、あなたの企業が“アフィリエイト”などの「提携プログラム」に参加しているのなら、ちょっと考え直してみた方がいいだろう。リンクを張ってトラフィックを導いてくれるコンテンツサイトにECサイトが売り上げの5〜10%を支払うという提携プログラムは、ECサイトにとっては苦労せずにトラフィックを集めることができるが、コンテンツサイトにとっては多額のマーケティング費用を費やして肝心の売り上げはECサイトに渡してしまうという不利なシステムである。

 しかし、中小規模のコンテンツサイトにとっては、自社でECサイトを構築しようにも、少なくとも100万ドル(日本円に換算すれば1億円以上)はかかるので、簡単に参入できる額ではない。

 そこで、最近では、こうしたコンテンツサイトを対象に、EC機能を低コストで提供する企業が次々と登場している。これらの企業はCSP(コマース・サービス・プロバイダ)とか、ESP(eコマース・サービス・プロバイダ)と呼ばれ、単なるECサイト構築サービスだけではなく、ネット広告、クレジット決済、商品提供、カスタマー・サポートまでをパッケージ化した包括的なECサービスの提供を行っている。

 そうした企業は、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)としてサービスを提供しているので、顧客はハードウェアやソフトウェアを購入する必要がなく、約3〜6週間という短期間で、しかも自社でECサイトを構築する場合の2割以下のコストで、自社のコンテンツサイトにEC機能を追加できる。

Vitessa社のすべてのサービスはECポータルサイト内で

 代表的なESP企業であるVitessa社は、ネット広告からサイト構築、クレジットカード決済、製品の調達、配送、データマイニングまでのすべてをオンライン上で提供している。

 まず、同社は、Ingram Microをはじめとする20社の大手サプライヤーと提携し、書籍、音楽CD、DVD、コンピュータ製品、ビデオゲーム、家電、オフィス用品、家具など15種類の製品カテゴリから総計150万種類の製品を提供している。

 例えば、映画評論サイトが自社サイトの特定ページでDVDや関連グッズを販売したいと考えた場合、同社のECポータルである「VMX Merchant Portal」ページからIDとパスワードでアクセスし、複数のサプライヤーからオンラインで商品を選択するだけでよい。

 つまり、コンテンツサイトは、自社サイトで売りたい商品に関して各サプライヤーと個別に販売契約を結ぶ必要がないので、時間とコストの大幅な節約につながる。また、顧客サイトの売り上げやユーザーの行動履歴などもこのECポータルから提供されている。

 一方、サプライヤーにとっても無数のドットコム企業と個別に契約を結ぶ手間が省け、Vitessa社が注文を1つにまとめて送信するので、受注システムの大幅な合理化が図れるというわけだ。

「在庫リスク軽減」「リアルタイムに収益確保」など、魅力的なサービス満載?!

 Vitessa社のサービスのさらに大きな魅力は、まず、商品販売に伴う在庫リスクが少ない点である。注文のあった商品は、サプライヤーから直接ユーザーに届けられるので、Vitessa社と顧客であるコンテンツサイトは、在庫商品を収納するための倉庫を設置する必要がないということだ。

 そして、商品の代金についても立て替える必要はなく(仕入れる必要がないから)、商品が購入されてユーザーのクレジットカードから代金が引き落とされるまでは、一切サプライヤーへの支払いは発生しない。

 つまり、ユーザーから料金を受け取った後、サプライヤーは原価、顧客であるコンテンツサイトは利益、Vitessa社は3〜5%の手数料を受け取るという決済方法をとっており、多くの提携プログラムの場合には、取引成立後から60〜90日後に決済が行われるのに比べ、Vitessa社のサービスを利用すれば、ほぼリアルタイムで収益を確保することができるというわけだ。

 しかも、利益は提携プログラムの場合よりも、4〜6倍近く出すことができる。例えば、19ドルの本が売れた場合、提携プログラムでは、売り上げ代金の5〜10%にあたる1〜2ドル程度しか利益として受け取れないが、Vitessa社を利用すれば、だいたい6ドルを得ることができるのである。

 また、商品の購入者への受注確認のための電子メール送信や、サイト上で商品配送のトラッキングが行えるサービス、コールセンター大手のTeleTech社との提携による電話サポートなどのカスタマー・サポートなども提供している。返品に関しても、サプライヤーが返品を受け取った時点でユーザーのクレジットカードに返金するといった具合に、きめ細かいサービスを提供している。

必要なプロセスをモジュール化するEscalate社

 こうしたECサービスを提供している企業はVitessa社のほかにも、CrossCommerce社、Escalate社、Iconomy.com社、iVendor社、Vcommerce社など5〜6社が挙げられる。Escalate社は、アプリケーション・サーバの草分け的企業であるKiva Software社を設立したケン・リム(Keng Lim)氏により、1999年に設立された企業である。同社もVitessa社と同様なサービスを提供しているが、ECサイトに必要なプロセスをモジュール化し、それぞれの企業のニーズに合わせて提供しているという点がユニークである。

 例えば、オンライン商品券やデジタル・クーポン、メール広告サービスを提供する「マーケティング」、サプライヤーの選択や商品カタログを作成する「サプライヤー」、商品の追加や変更、顧客の購入パターンに基づき商品を配置する「販売」、在庫センターとの連絡を取る「物流管理」、商品の返品や交換サービスを行う「カスタマー・サポート」などである。顧客企業は、これらのモジュールから必要な機能を選んだり、あるいは、すべてのモジュールをまとめて利用したりすることもできる。

 また、提供する商品数も各社により異なっている。最大の商品数を誇るのがCrossCommerce社で、Tech Data社や国際ディストリビュータであるQRS社との提携により、その商品数は800万種類を超えている。

ECサイトにとっても魅力的なCSP

 これらの企業が急成長を遂げた背景には、バブルムードの冷え込みから、投資が簡単には得られなくなり、バナー広告しか収入源のない多くのコンテンツサイトやコミュニティサイトが苦境に立たされるようになったことが挙げられる。Vitessa社の調査によると、上位200社のコンテンツサイトのうち提携プログラムに参加している企業は約8割に上るが、それらの企業は5〜10%のコミッションに大きな不満を持っているという。これらの企業が新たな収入源を求めて、提携プログラムからCSPへと流れている。

 ちなみに、「Amazon.com」は、43万ものサイトと提携プログラムを結び、トラフィックの半分以上を彼らに頼っているというから、CSPの潜在的な市場規模は大きいと言える。

 また、コンテンツサイトのみならず、ECサイトにとっても、短期間で低コストなサイト構築を行うCSPは魅力的な存在である。なぜなら、深刻化するエンジニア不足から、社内に高価なエンジニアを多数抱えるのが困難になりつつあるうえ、株式市場の低迷に伴い多くの企業が運営コストを削減する必要に迫られているからである。

 例えば、5000万ドルの売り上げを計上していたリーバイス(Levi's)社のECサイトが閉鎖したのは、サイト運営に2500万ドル以上のコストがかかっていたからだ。CSPを使用すれば、すべてのプロジェクトを社内で抱えなくても、その一部をアウトソースすることができる。

ユーザーとの長期的な関係を築く効果も

 こうした背景から急成長を続けるCSPは現在、新たな局面に進んでいる。コンテンツサイトは、商品を販売することで顧客を長時間サイトに滞在させ、彼らをより深く知ることができるようになる。これにより、行動・購入履歴を把握して、次のマーケティングに効果的につなげ、顧客との長期的な関係を築くことができるようになる。

 さらに、CSPの中には、複数のコンテンツサイトからユーザー情報を得られる点を生かして、ユーザー情報の集計データを顧客サイトに提供しようとする企業もある。

 例えば、前出のVitessa社では、あるユーザーが同社の顧客サイトを訪れた場合、同社のユーザー・データベースと照合して、そのユーザーの嗜好性に合わせたECサービスを提供する計画を立てている。これらのサービスは、高まるプライバシー流出の懸念から実行されるかどうかは疑問だが、自社サイトのユーザーの行動や嗜好傾向を分析できるだけでも大きな効果があることは間違いない。

代表的なCSP企業の一覧表

CrossCommerce
URL http://www.crosscommerce.com/
設立 1999年
本社 カリフォルニア州サンフランシスコ
資本 2000万ドル(DLJのベンチャーキャピタル部門The Sprout Group、Nexus Group、Osprey Ventures、Beneventure Capital他から出資)
クライアント AutoMall.comDataStonethehuddle.comBritannica.com
サービス名 E-Merchandising Platform
取り扱い商品数 800万種類
サービス料金 設定料金なし、ECによる売上の30%を徴収

Escalate
URL http://www.escalate.com/
設立 1999年
本社 カリフォルニア州レドウッドショアーズ
資本 4500万ドル(Accel Partners、Norwest Venture Partners、The Barksdale Group、Discovery Ventures他から出資)
クライアント Quokka.comEgreetingsTuroturo.com
サービス名 Escalate Commerce Network
取り扱い商品数 500万種類
サービス料金 設定料金2万5000〜50万ドル、月々のサービス料金○○ドル、ECによる売り上げの6〜12%を徴収

Iconomy.com
URL http://www.Iconomy.com/
設立 1995年
本社 マサチューセッツ州ケンブリッジ
資本 非公開
クライアント Autobytel.comGoToWorldeDietseCirclesiGive
サービス名 Commerce in Context
取り扱い商品数 250万種類
サービス料金 設定料金1万〜10万ドル、月々のサービス料金1000ドル〜1万ドル、ECによる売上の3〜12%を徴収

iVendor
URL http://www.ivendor.com/
設立 1998年
本社 カリフォルニア州サニーベール
資本 2000万ドル(Patricof、SAP Ventures、Labrador Ventures、Compass Technology Partners、Jacaranda Partners他から出資)
クライアント ABCLucasFilmsAcademy Awards Foundation
サービス名 Global E-Merchandising Network
取り扱い商品数 300万種類
サービス料金 設定料金2万5000ドルから

Vcommerce Corporation
URL http://www.vcommerce.com/
設立 1998年
本社 コネチカット州スタンフォード
資本 3500万ドル(Archery Capital、Excel Communications、Benchmark Capital、CMGI @Ventures、Pequot Capital Management他から出資)
クライアント eFaxNeoPlanetDialpad.comMyFamily.comAbout.com
サービス名 Vmerchant Solution
取り扱い商品数 100万種類
サービス料金 ECによる売上の2〜25%を徴収

Vitessa
URL http://www.Vitessa.com/
設立 1997年
本社 ワシントン州シアトル
資本 4000万ドル(Media Technology Ventures、GE Equity、MediaOne Ventures、Vignette他から出資)
クライアント NBC Home VideoMicrosoftCritical PathTeamSphere InteractiveCritical PathTeamSphere Interactive
サービス名 Vitessa Merchant Exchange(VMX)
取り扱い商品数 150万種類
サービス料金 設定料金10万ドル、月々のサービス料金1万ドル、トランザクションごとに3〜5%の手数料を徴収

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