ネット経済を加速するインキュベーター 「バーチャルインキュベーター」など多様化へ@米国IT事情(2)

 「いいビジネスプランを思いついたが、資本金や人材をどうやって集めていいか分からない」という起業家の卵にとって、頼りになるのが「インキュベーター」だ。ドットコム養成工場とも言えるインキュベーターの役割と米国の注目企業を探ってみよう。

» 2000年05月22日 12時00分 公開
[長野弘子,@IT]

インキュベーターとVCの違いは?

 インキュベーターとは、直訳すると“孵化/培養器”。企業設立に必要なシードマネーから、オフィススペースやITシステム、総務、会計管理、法律顧問までを無料または安価に提供することで、新興企業の成長を助ける企業や機関である。インキュベーターにより起業家は文字通り、ビジネスプランさえあればドットコム企業を設立でき、IPOにいたるまでの完全サポートを受けられる。そのかわり、新興企業は同社株式の30〜50%をインキュベーターに譲渡する必要がある。平均的な新興企業のオフィススペース使用期間は6ヶ月。ベンチャーキャピタル(VC)との大きな違いは、VCが資本は提供するが成功のノウハウやITシステムなどの企業リソースを提供しないのに対して、インキュベーターは企業リソースに最大の焦点を絞っている点だ。光速で動くネット業界では、資本集めよりも企業リソースをいかに素早く集めてベンチャーを軌道に乗せるかに成功の可否がかかっている。

急増するインキュベーター〜「ケイレツ化」が進む

 National Business Incubation Association(NBIA)の調査によると、米国のインキュベーターは1980年代には10社以下だったのが現在では600社を超えるまで急増している。ネットインキュベーターの走りは何といってもBill Gross氏率いるidealab!だ。1996年に設立されて以来、eToysやCitySearchを含む32社以上の注目企業を育成している。それ以降は、eCompanies、eHatchery、Intend Changeなどドットコム企業で成功した起業家が設立したインキュベーター、パナソニックの「Panasonic Internet Incubator」など既存の大手企業が設立したインキュベーターが次々と登場している。また、CMGi、ICG、Divine InterVenturesなどは、ポートフォリオ企業同士でビジネスを行うことにより相乗効果を高めるケイレツ化を推し進めている。一方、idealab!やeCompaniesは企業を成長させた後はあくまで個々の企業にビジネス決定権を譲ねている。

「バーチャルインキュベーター」も登場〜多様化へ

 インキュベーターの種類も多様化しており、最近では「バーチャルインキュベーター」も登場している。Startups.comは、一般的なインキュベーターのように物理的なオフィススペースは提供しないが、それ以外のITシステム、総務、会計管理などの企業リソースを提供している。また、同社のサービスを使用するために株式を譲渡する必要はなく、年間費(2万5000ドルから)を支払う仕組み。さらに、RareMediumやOrganic、KPEなどのインタラクティブエージェンシーは、彼らの主要事業であるウェブデザイン/戦略を新興企業に無料で提供する代わりに株式を取得、テレビ局ではCMスポットを無料で提供する代わりに株式を取得するというインキュベーター事業を行っている。これにより多額の資本を持たなくても投資が行えるようになる。その他、Divine InterVenturesはシカゴの近郊のGoose島に不動産企業の「Habitat Divine」、PR企業の「Buzz Divine」、ウェブデザイン企業の「Web Divine」、販売マーケティング企業の「Sales Divine」を設立し、すべてのポートフォリオ企業にこれらの企業からサービスを提供してミニ生態系を構築する計画を立てている。

起業家やVC投資家の反応はまちまち

 素早く企業を設立してIPOに導くためにインキュベーターモデルは最適だと言われているが、反対意見もある。まず、大多数のインキュベーターが「6ヶ月で新興企業を軌道に乗せる」としているが実際にはより多くの時間がかかる、企業リソースのテンプレート化は必ずしもすべての企業に適用できるわけではない、不安定な株式市場に大きく依存する株式交換モデルはリスクが大きいなどである。また、自社株の半分近くを譲渡するだけの価値があるのかを疑問視する起業家、インキュベータープログラムに参加する企業は競争力が弱いという理由で投資を控える投資家も存在する。しかし、長期的な目で見た場合、インキュベーターのビジネスモデルは、企業がコアビジネスに専念するために他のすべての分野をアウトソースするというトレンドの一部であり、このトレンドが衰えることはないだろう。インキュベーターは、idealab!のような初期段階のみに焦点を絞る企業、またDivineのように長期的に企業を囲い込むような企業のどちらも、今後は生き残りのために統合するか業種別や地域別などの特定分野に焦点を絞るようになるだろう。

主要なネットインキュベーター

社名 Divine InterVentures(www.divineinterventures.com
設立者名 Andrew "Flip" Filipowski(元Platinum Technology CEO)
本社所在地 イリノイ州シカゴ
事業内容 エクスチェンジ、ソフトウェア、ブロードバンド技術、ネットアプライアンス分野のBtoB企業に焦点を絞る。オフィススペース、会計管理、法律顧問、マーケティング、ウェブホスティングを提供。

社名 eCompanies(www.ecompanies.com
設立者名 Sky Dayton(Earthlink設立者)
本社所在地 カリフォルニア州サンタモニカ
事業内容 BtoBおよびBtoC企業に焦点を絞る。6カ月間で新興企業の製品とマネジメントチームを確立する。1億3000万ドルのVC(eCompanies Venture Group )を抱え、毎年12社を育成する。

社名 eHatchery(www.ehatchery.com
設立者名 Jeff Levy(RelevantKnowledge共同設立者)
本社所在地 ジョージア州アトランタ
事業内容 BtoBおよびBtoCのEC企業に焦点を絞る。総務全般、会計管理、法律顧問、ITサポートを提供。IdealabとUPS、DLJからの投資を受ける。毎年12社を育成する。

社名 idealab!(www.idealab.com
設立者名 Bill Gross
本社所在地 カリフォルニア州Pasadena
事業内容 Bill Gross氏のアイデアを実現するための会社で、外部からのビジネスプランは受けつけない。eToys、NetZero、GoTo.comなどを設立。

社名 i-Hatch(www.i-hatch.com
設立者名 Chip Austin
本社所在地 ニューヨーク州ニューヨーク
事業内容 EC、ウェブアプリケーション、ウェブサービス、ネットワークインフラ、ブロードバンド企業に焦点を絞る。毎年12社を育成。18社のポートフォリオ企業を持つ。

社名 Intend Change(www.intendchange.com
設立者名 Joe Firmage/Toby Corey(USWeb設立者)
本社所在地 カリフォルニア州サンタクララ
事業内容 ネット企業のみではなくブランド企業のスピンオフにも焦点を絞る。ポートフォリオ企業のElectron EconomyおよびInveSmartは4100万ドルの投資を受ける。毎年10社を育成する。

社名 Internet Capital Group(ICG)(www.icge.com
設立者名 Walter W. Buckley/Kenneth A. Fox
本社所在地 ペンシルベニア州ウェイン
事業内容 BtoB企業に焦点を絞る。VerticalNet、US Interactive、ClearCommerce、BidCom、Breakaway Solutions、Onvia.comを含めた40社以上のポートフォリオ企業を抱える。

社名 Venture Frogs(www.venturefrogs.com
設立者名 Tony Hsieh(Linkexchange設立者)/Alfred Lin
本社所在地 カリフォルニア州サンフランシスコ
事業内容 ネット新興企業に焦点を絞る。6カ月間オフィススペース、会計管理、法律顧問、ITサポートを提供。2700万ドルのVCファンドを持つ。毎年30〜40社を育成する。

企業インキュベーター

社名 Cambridge Technology Partners
本社所在地 マサチューセッツ州ケンブリッジ
事業内容 ASP企業に焦点を絞る。1999年12月から開始した「Newco」プログラムで、Cambridge Technologyの社員やその他の起業家に戦略アドバイス、総務全般、ITサポートを提供する。

社名 IBM-Conxion Dotcom Incubator Program
本社所在地 9カ所のConxionデータセンター
事業内容 IBMとISP企業のConxionが新興企業に対して技術サービスを6ヶ月間無料で提供する。その後、企業はサービスを購入、リースするかサービスを中止することができる。最初の25社はSilicon Valley Bankにより選別され、次の25社はGarage.comにより選別される。

社名 Hotbank
本社所在地 カリフォルニア州マウンテンビュー
事業内容 Softbank Venture Capitalポートフォリオ企業を育成し、それ以外の企業にはサービスを提供していない。個々の企業の20%の株式を取得する。提携VC額は12億ドル。毎年10〜12社を育成。

社名 Panasonic Internet Incubator
本社所在地 カリフォルニア州クパチーノ
事業内容 消費者家電のハードウェア、ソフトウェア、サービスを開発する企業に焦点を絞る。株式の譲渡や知的所有権の取得は一切行わないが、将来的な投資ラウンドでその新興企業に出資する権利を得る。

社名 Panasonic Internet Incubator
本社所在地 ペンシルベニア州ウェイン/カリフォルニア州パロアルト
事業内容 EC、ソフトウェア、サービス、通信企業に焦点を絞る。


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