捜査の技術10カ条を振り返る―捜査技術を実践しよう!ビジネス刑事の捜査技術(16)(2/2 ページ)

» 2007年06月12日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
前のページへ 1|2       

捜査の技術10カ条を振り返る〜その2

 捜査の技術の後半は以下の5つだ。

6. 捜査のプロは分類能力が極めて高い

 蓄えた情報や知識を体系化すると、新たに出てきた問題が過去のどの情報や知識に関係するかを推理できるようになる。世の中にはそれと似たものがまったく存在しないということはまずあり得ない。初めて出会った人や物であっても、過去の情報や知識から推測することができる可能性が高いということである。

 CRMシステムでも、過去の顧客反応(問い合わせや注文など)に関する大量のデータが収集され、類似の行動傾向がパターン分類されている。顧客の問い合わせや注文内容がその都度、パターン分類と比較されることによって、顧客のニーズを先回りしている。

7. 探索の原点は仮説の立案と検証にあり

 目的のものが何であれ、欲しいものを探り出して手に入れるためには、欲しいものに狙いを定めて追い詰めていくことが重要だ。

 狙いを定めて行動する人は、狙いが外れても失敗からの学習によって、より獲物に近づくように狙いを修正していける。これに対して、やみくもに行動する人は、たとえ欲しいものに近づいたとしても、次の場面では遠く離れてしまっている。仮説を立案してから行動することが捜査の技術上の鉄則なのである。

8. 物事の根本問題と因果関係に敏感になれ

 病気を治癒するときと同じで、薬で治療しても普段の生活が不健全なままでは病気は再発する。ビジネスにおける問題もまったく同じで、根本原因に気が付かなければ、現象として起きている問題は解決せず、根本原因から派生している原因を解決しても、問題は再び発生する。

 しかし、根本原因は、それを発見されると不都合な人たちによって、ごまかされることもある。現象として起きている問題には、必ずその背後に根本問題があり、その根本問題が別の問題を引き起こすという因果関係が存在する。

9. 犯人をマークし追跡せよ

 漠然と人の話を聞いていても、ただなんとなく新聞や雑誌を読んでいても大したことは得られない。だが、はっきりとした関心事がある人は、自分の関心事に関する話や記事が出てくると、しっかりとそれをキャッチできる。

 顔の見えない顧客データがいくら大量に登録されたとしても、そこから出てくる情報は高が知れている。しかし、顔が見える顧客データが少量でも登録され出すと、そこから出てくる情報はまだ会ったこともない顧客の行動パターンさえ教えてくれるようになる。特定の顧客をマークすることで、顧客タイプの行動パターンを知ることができるのである。

10. 日記、日誌は人に着目せよ

 世の中の出来事のほとんどは、人が原因となって起きている。日記、日誌を書くなら人に着目しよう。営業日報システムとCRM(顧客関係管理)システムとの違いはまさにここにある。

 相手の人の目線で日記を書くことができれば、より重要な情報を得られるかもしれない。捜査の極意は、いかにターゲットの心理に近づくことができるかである。相手の立場に立って考えられるように努力すれば、きっと、商売も人間関係もうまくいく。

終わりに―捜査の技術10カ条を実践するために

 ここまで見てきたように、捜査技術は“特別なもの”というわけではない。「これだったらいつもやっている」という読者もおられるだろう。しかし、大切なことは、それを意識的に実行しているかどうかにかかっている。

 そして、地道な情報収集も含めて、すぐに結果が出なくてもあきらめずに継続しているだろうか。マーケティングプロジェクトでも、生産性向上プロジェクトでも、トップがすぐに答えを欲しがり、成果が出なければ辞めさせてしまうようでは、捜査の技術は根付かない。

 どんなに高速で高機能なコンピュータシステムが登場しようとも、捜査の技術の主役は、地道に資料を収集し、パターンを見つけようと試行錯誤を繰り返す不屈の努力を続ける生身の人間である。華々しく手柄を挙げる第一線ばかりに目を奪われて、本当にたたえるべき縁の下の力持ちの存在に気付いていないことはないだろうか。

 日本版SOX法対策などの困難な課題が出てきたときに、ツールを導入したり、コンサルタントに依頼すればよいと安易に考えるのではなく、まずはその目的をしっかりと理解して、解決するための仮説を立ててみることが必要である。

 日本版SOX法対策の場合であれば捜査の技術10カ条を次のように適用すればよい。

 1. 強化すべきターゲットプロセスを定義し、2. 法規制を作った人間の立場で考え、3. 収集可能な資料や文献にしっかりと目を通し、4. 自分なりに立案した仮説で、5. 実際の業務実態を考察し、6. 業務実態を仮説によってパターン化して、7. 関係者との意見交換を通じて仮説の立案と検証を繰り返し、8. 根本問題とその解決策を特定し、9. マークすべきコントロールポイントを定めて、10. 継続的にモニタリングする。

 捜査の技術10カ条を知識として理解するだけでは何の意味もない。経験したことがない、過去に事例のないといった事案に対面したとき、ぜひ捜査の技術10カ条を活用してみていただきたい。1人でも多くのビジネス刑事が誕生することを期待して、この連載を終えることとする。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


「ビジネス刑事の捜査技術」バックナンバー
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ