単にプロセスのリデザインや改善だけに焦点を当てるのであれば、マネジメントプロセスを抽出する価値はないと思われる。例に当てはめると、分かりやすい。ピザプロセスには調理のアクティビティが含まれるが、そのアクティビティの分析にまで踏み込むのであれば、その一環として日常のマネジメントのやり方にも焦点を当てなければならないのだ。
大規模なビジネスプロセス・アーキテクチャ・プロジェクトの立ち上げでは、いろいろな問題が発生する。戦略部門内のプロセス、ビジネスプロセス・センターオブエクセレンス(CoE)のアクティビティ、あるいは経営企画に関連するプロセスを、どのように位置付ければよいのだろうか。これらのプロセスは、分析対象となる特定プロセスから遠く乖離(かいり)した存在であることが多い。しかし、個別プロセスに対し、大きな影響力を頻繁に行使してくる。
例えば、前述のピザチェーンを所有する本社企業が、ある方針を設定したとしよう。その方針はビジネスルールとして具体化され、地方のピザチェーン店のマネージャは、そのルールを実行しなければならない。
ここで、地方のチェーン店におけるプロセス実行プロジェクトが暗礁に乗り上げたとしよう。3〜4のアクティビティにおける非効率が、問題として立ちはだかったのだ。本社方針の実行から直接的にもたらされた結果であった。この状況をダイアグラムにすれば、図4のような構図になるであろう。
図4 ピザ配達プロセスにかかわる、日常的マネジメントプロセスとエグゼクティブ・マネジメントプロセス
ビジネスプロセス・アーキテクチャ構築の過程では、方針プロセス、さらにはビジネスルールプロセスをも明るみに出したいと考えるに違いない。しかし、恐らく、“配達のマネジメント”のマネジメントプロセスの表示はしないであろう(図4)。通常、BPMチームがビジネスプロセス・アーキテクチャに含めたいと思うのは、それを超越したエクゼクティブ・マネジメントプロセスでしかない。
一方、SCORやVCORのようなフレームワーク、あるいはCOBITやCMMIと組み合わされたマネジメントプロセスのリストがある。これらについて、触れておこう。
これらのリストを見れば、明らかに日常的マネジメントプロセスの一部であるマネジメントアクティビティと、それらから分離独立したエンタープライズ・マネジメントプロセスが混在していることに気付く。同時に、これらのビジネスプロセス・フレームワークで定義しているのは、マネジメントプロセスであることが多い。たいていのユーザー企業は、この事実に注目してこなかった。
例えば、SCOR・COBIT・CMMIは、それぞれに独自の定義を具備し、主要プロセスマネジメント・アクティビティティを定義している。これらを用いている企業のほとんどは、恐らく上記の事実に留意することなく、これらのアプローチを採用してきた。
さらにプロジェクトマネジメント協会(PMI)のPMIフレームワークを導入すれば、それらの企業は第4のプロセスと定義のセットを持つことになる。同時に2種類のサプライチェーンフレームワークを用いることで、二重の検討を迫られるであろう。しかし、彼らは、プロセスマネジメントプロセスの複数の定義を突き付けられることを、あまり意に介していないようだ。
ここで筆者から何らかの適切なソリューションが示せれば良いのであろうが、残念ながら持ち合わせていない。ただ、次のような現実があることは確かだ。
社内でビジネスプロセス・アーキテクチャの本格的展開やビジネスプロセス・フレームワークの活用を推し進めるにつれて、あることに気付くであろう。それは、自分たちが論じていることに関する明確な理解を持たないままプロセスマネジメントプロセスについて話し合っている、ということだ。
企業で行われているプロセスマネジメントの研修についても、同様のことが指摘できる。自社におけるプロセスマネジメントとは何を意味するのか、そして自社のプロセスマネージャにどのようなアクティビティの遂行を求めるのか。それらを明確にしなければならない時が、やがて来るだろう。
われわれは全員、マネジメントプロセスについてもっと真剣に考えなければならない。そして、マネジメントプロセスの最良の定義の仕方に関するコンセンサスを樹立しなければならない。
では、また。
ポール・ハーモン
Original Text
Harmon, Paul, "What is a Management Process," Business Process Trends, EMAIL ADVISOR, Volume 5, Number 4, February 27, 2007.
ポール・ハーモン(Paul Harmon)
ビジネスプロセスに関する情報提供を行うBusiness Process Trends(BPTrends)の創立者/エグゼクティブエディター。Enterprise Alignmentの創立者/チーフコンサルタント。
高木克文(たかぎ かつふみ)
(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数。
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