BPMプロジェクト成功の鍵[2] - 推進組織と機会特定BPTrends(10)(2/2 ページ)

» 2007年09月05日 12時00分 公開
[著:デレク・マイヤー, 訳:高木克文,日本能率協会コンサルティング]
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ステップ2:適切なターゲットの選定

 BPMプロジェクトの成功の可能性を左右する最も重要な要因の1つは、最初に取り組むプロジェクトの選定である。短期間内に明確なビジネス・ベネフィットを実現できる機会の特定に、照準を合わせなければならない。機会はあらゆる場に潜んでいるが、以下の要素がバランスよく備わったプロセスを発見することが鍵となる。

  1. 相対的に成熟度が低いこと - タスクの定義が不十分、あるいはワークフローの安定度が低いプロセスを探す。すでに管理と測定が入念に行われているプロセスよりも、プロセスが十分に把握されていないプロセスの改善の方が、はるかに容易である。
  2. インパクトが強いこと - 自社のKBOに照らし、効果的なソリューションではあってもハイリターンを生み出せるかどうかを評価する。これは、どのような方向を目指すかの問題だ。一般的に、顧客やサプライヤーに接するプロセスは迂回(うかい)路と非効率に満ちていることが多く、格好のターゲットである。ほかの視点としては、マネジメントの可視化や仕事のトレーサビリティに欠いていることが挙げられる。そうしたプロセスでは、ささいなミスが売り上げや利益に甚大な悪影響を及ぼすことがあるからだ。
  3. あまり複雑でないこと - 複雑さの程度が、取り組みと仕分けが容易なレベルである場を選定する。高度なエンドツーエンド・プロセスは避けること。多面的で複数部門にまたがるシナリオから生まれるインパクトは大きいかもしれないが、この種のプロジェクトでは、回転の速い反復(イテレーション)と拡張、さらには継続的改善ができない。突き詰めていえば、“ビッグバン”プロジェクトを標的とする前に、スキル、専門知識、およびそのほかのBPMに必要な能力を蓄えておくことが最良の方策となる。

 当初の取り組み対象としては、3〜6カ月以内に確実に完了できるプロジェクトであることが、1つの目安である。さもなければ、スコープにクリープ現象が生じる可能性が高まる。それとともに複雑さが増大し、失敗のリスクも高くなる。

 しかし、周辺から軽視されることを避けるのに十分な重要性を持つプロジェクトでなくてはならない。通常は、部門単位でターゲットを設定するのが適切である。部門単位であれば、(複雑度の低い)限定的ビジネス環境であり、有意義で測定可能なインパクトをもたらすこともできるからだ。

 スキルと専門知識を獲得すると同時に、十分に遂行可能なプロジェクトであることを社内に示す。これこそが最初のプロジェクトの主要目標であることを、銘記しておかなければならない。

■3つの尺度を使う3つの尺度を使う

 最初の取り組み対象として最適なプロセスを見極めるために用いられるアプローチは、実に数多い。その中の1つの有用なテクニックが、一連の候補プロセスに対する考察に基づきマトリクス図を作成し、前述の成熟度、インパクト、複雑度の3つの尺度を用いた比較と対比を行う方法である。

 成熟度に関しては、最低(1)から最高(5)に至る成熟度の5段階についての合意を形成する。ミス率が高くサイクルタイムのばらつきが大きいほど、成熟度は低い。高いプロセス成熟度は、綿密なマネジメントとプロセス最適化の進展をうかがわせる。

 これにより、チーム内でさまざまのプロセスの成熟度レベル(プロセス品質と称されることもある)を分別することが可能になる。ケイパビリティ成熟度モデル(CMM)の5つのレベル区分を参照することは、プロセス成熟度に関するメンバーの理解を促進するうえで有用であろう。

 インパクトに関しては、特定領域にこだわらない中立的なメカニズムを見いださなければならない。1つのやり方は、組織の主要成功要因(CSF)のリストを作成し、そのいくつがプロセスによる支援やインパクトを受けるのか、について考察することだ。

 CSFは、組織の主要ビジネス目標(KBO)の達成に資すべき性格のものだ。組織に複数のKBOがあるとすれば、その中で最も重要なものを選定し、次に、その目標達成に資するCSFのリストを作成する。もし目標が金額であるならば、コストの極小化や収益の最大化をもたらす要因を見定めること。もし顧客満足度の向上がコア目標であるならば、顧客が重要視するサイクルタイムその他の事柄に焦点を当てたCSFリストを作成する。

 要するに、まず個別プロセスについて、それがインパクトを与えるCSFの数を把握すること。そして、把握したプロセス成熟度レベルと関連付けて、マトリクス上で対比するのだ。

 次に、「大・小」の表示形態を用い、各プロセスについて把握された複雑度レベルを示す。その結果を、図2に見られるようなグリッド上に配置する。ここでは、個々のプロセスを1〜8の番号で表した。各プロセスは認識されたプロセス成熟度レベルに応じて配置され、円の大きさが複雑度(大・小)のレベルを表す。

 恐らく、左上の領域に小さな円で表示されたプロセスが、最も取り組みやすく、最も大きなインパクトを持つものと想定できる。それらのプロセスの成熟度レベルは、ほかのプロセスとの相対的関係において、最も低い。しかし、企業の全体目標に対しては最大のインパクトを持つであろう。

 仮説例(図2)では、プロセス3の複雑度が、同じくプロセス成熟度の最低レベルに位置するプロセス7のそれよりも高い。すなわち、プロセス7の方が取り組みやすく、個々の改善から得られるベネフィットも非常に大きいものと想定できよう。

図2 品質レベルとCSF数に応じてマッピングされた改善候補プロジェクト

品質レベルとCSF数に応じてマッピングされた改善候補プロジェクト

 たいていの企業には複数の目標があり、その間に自然と拮抗(きっこう)が生じたとしても不思議ではない。例えば、オペレーション効率の20%改善と同時に、顧客サービスのスコアの向上を目指す企業があったとしよう。大・小指標を用いることで、この手法は、ほかの要因に関する評価にも容易に適用できる。この場合についていえば、コスト対総収益成長率、顧客サービス対サイクルタイム、前回のプロセス改善以降の経過時間、競合他社と比較した場合のオペレーションの優劣、あるいは総合的市場シェアに与えるインパクトまでもが要因として挙げられる。

 拮抗する目標を見いだし、優先度を評価するためのフレームワークが得られる点にこそ、このアプローチの意義があるのだ。

 この手法の基盤は、プロジェクトと関連するビジネスユニット・マネージャ、主要なチェンジエージェント、およびIT部門との円滑な対話である。これには、事前に大げさなコンサルティングを依頼するような必要はない(しかし、何らかの中立的なファシリテーションは有益かもしれない)。

 こうしたやり方は、あまりにも単純に見えるかもしれない。しかし、すべての参加メンバーが課題について討議し、やがて1つの合意に達するための、比較的中立的な場が得られることに、その意味があるのだ。

 この方法のもう1つのメリットは、マネージャたちの目を、初期プロジェクトを超え、その先に進むためのロードマップに向けさせることだ。この段階での主要目標は、ビジネスマネージャたちに、課題優先度の設定と合意形成を行わせることである。すなわち、最初に取り組むべきプロセスは何か、また、ビジネスのどの要素にインパクトを与えるのか、の検討を協同で行う。こうした過程を経なければ、よくあるスコープクリープのワナにはまる可能性が、必ず高まるであろう。

 しかし、はるかに重要なことがある。それは、ディスカッションにこそ最大の価値がある、ということだ。ディスカッションは、ビジネスマネージャたちに、座席に着き各自が所属する組織の実態について考察することを強いる。さらに、プロジェクトチームのアクションとビジネス戦略の間に確実に一貫性を持たせるための手段を提供するのだ(あるいは、少なくとも、自分たちの仕事がCSFとその相対的優先度にどのようにインパクトを与えるか、を理解させる)。

(続く)

Original Text

Derek Miers, "The Keys to BPM Project Success." BPTrends, January 2006


著者紹介

デレク・マイヤー(Derek Miers)

個人として活動する業界アナリスト。BPMI.org.の共同議長。最近では、最新のBPM環境に関する総合レビューを完成した(「BPMスイート」 BPTrends刊)。


訳者紹介

高木克文(たかぎ かつふみ)

(株)日本能率協会コンサルティング、テクニカル・アドバイザー。日本BPM協会 ナレッジ研究部会メンバー。グローバル・コンサルティング、リーダーシップ開発研修、ベンチマーキング・プロジェクトなどを中心に活動。戦略、組織、リエンジニアリング、学習する組織、ベンチマーキング、コンサルティングビジネスなどに関する著書、訳書、論稿、多数。


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