日本版SOX法対応コストを将来への投資に変える新発想の業務フローチャート作成術(5)(4/4 ページ)

» 2007年10月10日 12時00分 公開
[松浦剛志(プロセス・ラボ),@IT]
前のページへ 1|2|3|4       

 前ページでは個々の着眼点を列挙したが、さらに業務フローチャートによって、一連の業務プロセスの全体像が見えることで生まれるメリットがある。一連の業務プロセスにおける個々の作業の位置付け、意味を理解したうえで、プロセス全体で最適になるように、課題の認識・解決ができることである。つまり、個別対応で部分最適を図ることで発生するロスを避けられる。

 特に多くの担当者や複数の部署を横断する業務プロセスの場合、一連の業務プロセスの全体像が共有されていないと、各担当者・部署で業務「改善」をしたつもりが、全体では業務の有効性・効率性を損なっていた、といった事態が起こりかねない。例えば、ある担当者や部署が、担当する範囲だけを見て、「ここは無駄」と判断したとする。その判断に基づいてやり方を変えたら、後の工程で必要な情報が漏れ、思わぬトラブルや後の工程での手間が発生し、かえって余計なコストや時間が掛かるといったことである。

 一連の業務プロセスが業務フローチャートによって可視化され、共有されていると、各担当者・部署が担当範囲以外の全体の業務を意識して、日常業務の運用や改善ができやすくなる。「あの人は段取りがよい」といわれるような人がいるであろう。「段取りがよい」とは、自分の業務だけではなく、自分の業務に影響する、または自分の業務が影響を与える前後の工程についても知っていて、配慮ができることという面がある。いわば、前後の業務を含めた業務フローチャートが、無意識にせよイメージできているわけである。

 逆に、個々の業務の処理能力は高く、本人は効率よく仕事をこなし、改善努力もしているつもりなのに、同じ業務を担当している人や前後の工程を担当している人にしばしば迷惑を掛け、空回り気味の人はいないだろうか。このようなタイプの人は、前後の工程を含めた業務プロセスの流れが見えていない可能性がある。業務フローチャートによって業務プロセスが可視化されていれば、属人的な能力に依存することなく、組織的に課題認識・解決する力が高められるのである。

業務フローチャートは本来、1つで済むはず

 上記で、業務フローチャートをベースとした、課題の認識方法は理解できただろう。これに課題の解決とモニタリングが続くが、業務改善の枠組みから、日本版SOX法対応を特別に切り出して考える必要はない。例えば、課題解決の打ち手が業務システムの導入であれば、日本版SOX法対応を念頭に入れたログ管理だけを導入するよりも、作業効率を上げるための施策なども、同時に進めていくことが得策だろう。

 しかし、時間的制約により日本版SOX法対応を優先せざるを得ないのであれば、まずは日本版SOX法対応のための活動を通して、「業務プロセスの可視化」「課題の認識」「課題の解決」「課題のモニタリングとその継続的改善」という一連のアプローチを体験し、ベストプラクティスを蓄積するのがよいだろう。そして、2009年3月期以降は、日本版SOX法対応の対象範囲に含めなかった事業や業務プロセス、日本版SOX法以外の目的に拡大していくわけである。日本版SOX法対応に限らず、業務改善が目的であれば、業務プロセスの可視化は、共通のプラットフォームになる。

 ある時点における業務プロセスという現実は、本来、課題解決の目的によって違うわけではない。「○○の目的専用」の業務プロセスが、実体として存在するわけではない。目的に応じて、時間とコストの制約により、捕捉する対象範囲を絞り、粒度を設定するだけである。

 業務プロセスを構成する作業の粒度(大きさ)が最小単位にそろえられ、業務プロセスの実態を忠実に表現できるのであれば、ある業務プロセスのフローチャートは、本来1つで済ませられる。

 第3回で述べたように、部分が分かっていてそれらをまとめる(要約する)作業は楽でも、全体しか分かっていないものを部分に分割する作業は大変である。やり直しに近いからである。粒度の粗い業務フローチャートしか作っていなければ、後で別の目的のために、要約のレベル感の異なる業務フローチャートが必要になった場合、またやり直しである。日本版SOX法対応に限っても、評価の結果、リスクが認識され、対応が必要になることもあり得る。対応策を立案するために、より具体的なレベルの業務フローチャートが必要になるかもしれない。同じ業務プロセスにもかかわらず、二度手間、三度手間……と繰り返すのは、避けるに越したことはない。現場のモラールダウンをも招きかねない。

 本質を押さえた業務フローチャートは、日本版SOX法対応専用のツールではなく、ほかの用途にも使える。つまり、法対応のために渋々やるのではなく、業務プロセスの価値を高める積極的な投資として位置付けることが可能なのだ。

 「新発想の業務フローチャート作成術」という連載タイトルで5回にわたりご説明してきた。メインメッセージをまとめて、終わりにしたい。

  1. 本質を押さえた業務フローチャートは、「業務プロセスの可視化」を実現する。そこでは、業務フローチャートに対する固定概念を破る発想が必要である。
  2. 「業務プロセスの可視化」は日本版SOX法だけの土台ではなく、業務改善全般のプラットフォームである。
  3. プラットフォームの構築コストを、日本版SOX法対応だけに向けるのではなく、業務改善全般に利用することで回収可能な投資にできる。

 なお、本連載の内容についての問い合わせは、プロセス・ラボのホームページでも受け付けている。

著者紹介

松浦 剛志(まつうら たけし)

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、 人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。

2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。



前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ