“真のコミュニケーション”とは何かWeb 2.0マーケティング・イノベーション(7)(2/2 ページ)

» 2008年10月23日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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コミュニケーションとは、意見を交換し、共有すること

 ただ、ここで少し基本に立ち返っておきたいのは、消費者とのコミュニケーションが大切であることは当然としても、そもそも「コミュニケーションとは何か」という問題である。

 コミュニケーションという言葉は誰もが日常的に使っている。しかし、その定義となると実はけっこう難しい。むろん、ここで深追いするつもりはないが、その語源を探ってみると、重要なニュアンスが含まれていることが分かる。

 コミュニケーションという言葉は、ラテン語のコミュニス(communis)から由来している。これは今日の英語でも使われるcommon(共通したもの、共有物)とも相通ずる概念である。

 つまり、「コミュニケーション」とは、仲のいい友達と5分間で何十通もメールをやりとりするようなことでは決してない。「立場・見解の相違を超えて、実りある意見交換をし、その成果・価値を“共有”すること」といえよう。重要なのは、コミュニケーションを取ること自体ではなく、「どのように行うか」という“作法”なのである。前のページで述べた“内容あるコミュニケーション”とは、まさしくこういうことだ。

 Web 2.0が話題になって以降、情報技術としてのコミュニケーションツール自体は目覚しい進化を遂げた。だが一方で、井戸端会議の延長のようなSNS、誹謗中傷や炎上の話題で持ちきりのブログなどの現状をみていると、ツールが進化してコミュニケーション自体は取りやすくなっても、“コミュニケーションの作法”については、あまり顕著な進化が見られないように思う。そう感じるのは、決して筆者だけではないだろう。

“手段”と“目的”を履き違えてはいけない

 コミュニケーション作法は、企業においても重要な問題である。「複数の人と意見を交換し、共有すること」である以上、日常業務に大きな影響を与え得るし、人事や人材開発といった側面からみても、企業活動の主軸となる重要課題であるはずだ。少なくとも新入社員のオリエンテーションだけで済ませるような、簡単な問題ではない。

 ところが、納得できるようなコンサルティング・メソッドにこれまで出会ったことがない。「コミュニケーションを取ること」そのものを目標としてしまい、「何を目的に、どのように行うべきか」といった“作法”についての議論がないのである。その結果、“意見を交換し、共有する”というコミュニケーション本来の目的からいつの間にかはずれてしまい、「ただコミュニケーションを取ること」を目的とした本末転倒な議論になってしまっている。

 コミュニケーションとは本来、自然に湧いてくるものだ。努力して行ったり、他人に対する気配りの延長として行ったりするものではない。企業風土改善や業務改革で行われている、As isモデルをTo beモデルへと洗練させていくような、機械的なやり方でできるものでもない。

 たとえITを活用することでコミュニケーションが取りやすくなったとしても、“コミュニケーションを取ること”はあくまで手段であり、目的となってしまってはならないのである。そこが難しいところだ。

“真のコミュニケーション”を実現するメソドロジが必要

 “ソーシャル・メディア”と呼ばれるWeb 2.0を正しく理解するポイントも、コミュニケーション本来の意味をとらえることにある。コミュニケーションが複数の人を介する「間接的なもの」で、「文化的なもの」である点にも留意すべきだろう。

 つまり、Web 2.0とは「単なる情報伝達を行うためのメディア」ではなく、「自分の思いを複数の人に伝え、社会的な活動全域にわたって情報・学習を共有し、行動を促すためのメディア」と理解することが重要である。従って、Web 2.0やソーシャル・マーケティングという概念の下、「顧客志向」を実践するには、従来のように直接向き合っている顧客とのコミュニケーションを大事にする、といった発想だけでは対応できない。

 Web 2.0時代の「顧客志向」とは、「“顧客の顧客”とのコミュニケーション」「顧客同士のコミュニケーション(クチコミ)」「1人の顧客との長期に渡る深いコミュニケーション(エンゲージメント)」など、間接・直接を含めた、複数領域のコミュニケーションを醸成するものでなければならない。

 もちろん、単なる情報伝達を目的としたようなやり方では、こうした重層的なコミュニケーションを醸成することはとうてい不可能だ。実現の鍵となるのは、やはり企業と消費者、消費者同士の“きずな”である。では、こうした“真の意味でのコミュニケーション”を実現するには具体的にどうすればよいのか──そんなメソドロジを整備することが、今後、企業にとって大きなテーマとなっていくことだろう。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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