コンプライアンスは勉強するもんじゃない読めば分かるコンプライアンス(14)(2/2 ページ)

» 2008年12月10日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]
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そのつもりもないのに偽装請負

 さて、今回のテーマの話をしよう。いわゆる偽装請負とは、何らかの役務提供をしようとする場合、本来ならばそれは労働者派遣という形態に該当するのだけれど、派遣業者の登録もしていないし労働者派遣法の規制を受けるのも煩わしいといった理由で、外見的には請負契約を締結したという形式を整えることをいう。

 ただし、作中でも述べているように、当初は実質的な請負契約を結んでいたが、その後の実際の運用面において、当事者の仕事のやり方が労働者派遣法に定められる派遣業務に該当してしまうという事態も十分にあり得る。

 本作では、そのような後発的偽装請負とでもいうべき事態を描いた。

 グランドブレーカーが三洋メディカルサービスに提供している業務は、民法632条に定める請負契約に該当し、請負人であるグランドブレーカーは、「仕事の完成」つまり「三洋メディカルサービスの人事評価制度の改善課題の確定とその改善の方向性を述べた報告書の作成・納入」を約束しているのである。

 仕事を完成させるということは、自己の費用と責任において成果物を作成するということであって、グランドブレーカーは神崎と山本に対する指揮命令により「報告書」を作成することになるのである。

 ところが神崎と山本は、三洋メディカルサービスの稲森美由紀の魅力のとりことなり、稲森の求めに応じて、人事評価制度改革という本来の請負業務とは関係のない仕事までこなしている。これは、三洋メディカルサービスが他社の従業員である神崎と山本に対して直接的な指揮命令権を持っていることになり、外見上は労働者派遣業務に酷似していることになる。

 これで直ちに偽装請負となるわけではなく、偽装請負とされるためには、なおさまざまな条件が必要とされるだろう。しかし、少なくとも、偽装請負となる可能性は極めて高いといえる。

ALT 高幡 昇
ALT 稲森 美由紀

 作中の三洋メディカルサービスの稲森美由紀とその上司の高幡部長は人事部の人間であり、偽装請負については知っているはずだし、知っていなければならない立場でもある。従って、彼らは故意にこのような事態を作り出したのかもしれず、もし労働局の調査があったとしたら、三洋メディカルサービスに対する調べは厳しいものになっていたかもしれない。

 グランドブレーカーには責任がないかというと、そんなことはない。グランドブレーカーの主要業務はコンサルティング業務であり、それは一般的に請負業務となる。であるならば、自社の中心的業務に関係の深い偽装請負について、基本的なことは知っておくべきだ。

 これをコンプライアンスの観点からいうと、コンサルティング業務を中心とする企業としては、法律上請負契約として要求される業務遂行方法をとるべきであり(やるべきことを行う)、偽装請負に該当しそうな方法は回避すべきである(やるべきでないことは行わない)ということになる。

 前述したように、自己の業務の関係のある法令知識を身に付けておけば、作中のような事態は回避できたのである。

 百歩譲って、神崎や山本のようなスタッフレベルにそこまでの知識を求めるのは酷だとしても、その上司であり業務完遂責任を負う大塚マネージャレベルには必須の知識レベルといえよう。

【次回予告】
 次回は、本連載第5回第6回で好評を得た「パワハラ」を再度取り上げます。パワハラという言葉をめぐる企業の現状、実際のケースを取り上げてパワハラになるのかならないのかといった点を分かりやすく解説します。ご期待ください。

著者紹介

▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)

中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。

主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。

著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)


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