“いいとこ取り”して、ERPをもっと生かそうERPリノベーションのススメ(5)(3/3 ページ)

» 2009年01月29日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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必要なシステムを「すぐ」整備できる“作らない”という発想

 企業では、全社的に危機感を共有することで、ときとして従来の発想では生まれ得なかった対策やアイデアが生まれ、正式な採用に至ることがあります。今回のケースはまさにそれです。会社として生き残りを掛けるために、「何がいますぐできるのか?」をテーマとしたことで、前例のなかった“ERPとSaaSアプリケーションの連携”“3年間で捨てる程度のシステムの構築”という考え方が生み出され、実行されたわけです。

 中でも注目すべきポイントは、「必要な機能を、確かな品質で、しっかりと構築する」という“システム構築の定石”を重視せず、とにかく「いますぐ使える機能を、そこそこ使える品質で、とりあえず構築すること」に重きを置いたことです。

 今回のように早急な対応が求められている場合、こうした考え方は特に重要となります。いや、今回のケースに限らず、変化の激しい現在の市場環境を俯瞰(ふかん)してみると、今後ますます重要な考え方になっていくといえるのではないでしょうか。そして、この考え方を実践するうえで大切なのは、システムを“作らない”発想に尽きるといえます。

 ただ、こうした考え方は、IT業界に長年身を置いた人ほど違和感があるようです。詳細な仕様は作らず、とりあえずシステムを稼働させ、様子を見ながらどんどん改修する、不足する機能はあきらめるか代用手段を考える、3年程度で捨てる予定のシステムを構築する──こうした“作らない”発想はベンダからはまず出てきません。しかし、こうしたこれまでとはまったく反対のアイデアが、実は企業がいま一番必要としているソリューションであったりするのではないでしょうか。

“サービス・インテグレーション”の時代がやってくる

 では、市場環境変化に合わせて、迅速にシステムを構築するうえで必要となるのが“作らない”発想であれば、“作らない”発想を実践するためには、何が必要となるのでしょう? それは「使える機能を幅広く知っている」ことと、各システムの「“いいとこ取り”ができるアイデアやセンス」です。CIOや情報システム部門に限らず、経営企画部やユーザー部門の人も含めて、今後はそうした知識、感覚がますます求められるようになると思います。

 というのも、技術的な側面ではもちろんですが、社会やIT業界の動向からしても、“いいとこ取り”がしやすい環境がますます整いつつあるからです。例えば、最近は、SOAやSaaSという言葉がIT関連媒体に限らず、一般の媒体でも見受けられるようになりましたし、実際に利用も進んでいます。システムの機能をインターネット経由で提供しているグーグルやアマゾン、セールスフォース・ドットコムという会社の認知度もかなり向上しています。

 また、グーグルやセールスフォース・ドットコムなどは、老舗となった感があるマイクロソフトやオラクル、SAPなどとは異なるビジネスモデルであることから、マスメディアでは「セールスフォース vs マイクロソフト」といった“対決の構図”で報道されることもしばしばですが、製品・サービスのレベルではそんなことはありません。先進的なユーザー企業では、両方のシステムが見事に共存して動いています。

 つまり、いまIT業界では“対決”ではなく“共存”が1つのテーマとなっており、各社が得意とする分野で存在理由を明確にし、それぞれが独自の市場を形成するトレンドにあるのです。ユーザー企業が必要なものを、必要なだけ選び、自由に組み合わせられる環境はますます整いつつあります。

 今回ご紹介したお話も、システム構築に必要な機能・サービスを極力“作らず”、“いいとこ取り”して実現した事例であり、手法としては「エンタープライズ・マッシュアップ」と呼ばれています。2007年ごろ、コンシューマ向けのWeb技術として、1つのユーザーインターフェイスに電子メールや地図情報、カレンダーなど、異なる機能を融合する「マッシュアップ」が注目を集めましたが、そのエンタープライズ版となります。もちろんビジネスで利用するためには、マスタデータの同期やデータ連携、業務プロセスの標準化といったいくつかのポイントがありますが、基本的な考え方は同じです。

 従来のシステム構築であるSI(システム・インテグレーション)と違い、機能・サービスを“いいとこ取り”して、それらを組み合わせてシステムを構築することから、筆者はこれを「New SI(サービス・インテグレーション)」と呼んでいますが、市場環境変化が激しく、システムにも高いコスト効率が求められつつあるいま、この考え方は今後ますます重要になると考えています。

筆者プロフィール

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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