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光学10倍なのにコンパクトな秘密――「LUMIX DMC-TZ1」の開発者に聞く永山昌克インタビュー連載(2/3 ページ)

» 2006年03月20日 10時00分 公開
[永山昌克,ITmedia]

屈曲光学系と沈胴光学系の技術が融合

――DMC-TZ1は、焦点距離35〜350ミリ相当の10倍ズームですが、28ミリスタートのほうが旅には使いやすくないですか?

山根氏: 旅行用に限らず、28ミリ相当からの10倍ズームが欲しいという声は確かにあります。しかし、この製品の場合、28ミリにするとレンズの前玉がさらに大きくなってしまいます。カメラのサイズやトータルバランスを考慮して、DMC-TZ1では35ミリからの10倍ズームという選択にしました。

 今やデジカメが広く普及し、デジタル写真の楽しみ方がどんどん広がっています。より広角で撮りたい、より望遠で撮りたい、よりコンパクトがいい、もっとマニュアル機能を使いたいなど多種多様なニーズがあり、それらを1台の製品ですべて完結させることは非常に困難です。決してワイドの魅力や利点を軽視しているわけではありません。今回、DMC-TZ1と同時期に発表した28ミリ相当からの3.6倍ズーム機「DMC-FX01」が、そのひとつの答えだと考えて下さい。28ミリ相当からの10倍ズームは、今後検討する余地はあります。

photo 屈曲光学系と沈胴光学系を組み合わせた10倍ズームの断面。下段の中央付近に見えるのが手ブレ補正レンズ。三角形の部品は光を折り曲げるプリズム

――屈曲と沈胴を組み合わせたレンズ設計は、どうして採用したのですか?

山根氏: 屈曲と沈胴を組み合わせるアイデア自体は3年以上前から考えていました。今回、コンパクトな高倍率ズームを作るというテーマの中で、レンズの飛び出し部分をいかに小さくするかが、開発の最初のポイントでした。屈曲にしないタイプでどこまで小さくなるか、屈曲した場合にはどれだけ小さくなるか、様々なパターンをシミュレーションし、いちばん効率よく小型化できる形として、この構造にしました。

 ただ、従来機のストレートなレンズ構成とは異なり、カムを使ってレンズを動かしているため、10倍もの倍率をワイドからテレまできっちりと光学性能を出すのは簡単ではありません。当社のレンズはライカと協業し、ライカの承認を得なければ量産することができません。解像本数、MTF、ゴースト、フレア、色収差、歪曲収差など、光学特性に関する数値化されたさまざまな基準があり、それらすべてをクリアするために従来以上の時間と労力を費やしました。

――電源を入れた時に、レンズが動かないのが便利ですね。

山根氏: はい。DMC-TZ1のコンセプトのひとつとして、クイックスタートというのを掲げています。沈胴領域とワイド域が同じになるように設計し、素早く起動してすぐに使えようになっています。また高速起動を行うには、ズームの繰り出しだけでなく、フォーカスのイニシャライズという制約もあります。そこでAF駆動にはリニアモーターを採用し、スピードアップを図っています。

 リニアモーターは動く軸上に磁石やコイルがあり、軸変換がないぶん、これまで一般的なステッピングモーターに比べて効率がよく、AFの高速作動や静音性で有利になります。当社がビデオカメラで培った技術のひとつといえます。

――搭載CCDは1/2.5型の総画素数637万画素。なのに有効画素数が500万画素なのは、どうしてですか?

佐藤氏: 胸ポケットに入る小型サイズというコンセプトに沿って、最初から1/2.8型CCDという仕様でレンズ開発を進めていました。1/2.8型は、1/2.5型よりもやや小さいので、レンズの小型化に有利です。ただし、このCCDサイズそのものがボディサイズに大きな影響を与えるわけではありません。それなら、1/2.8型のCCDを新規開発するよりも、これまでの製品で使い慣れた1/2.5型のCCDを利用したほうが絵作りの安定性を保てると判断しました。つまり、1/2.5型637万画素CCDを搭載し、その1/2.8型の領域に相当ずる500万画素を使用しています。

photo 光学ファインダーや電子ビューファインダー(EVF)は非搭載。手ブレ補正機能を進化させ、高精度で見やすい液晶モニターを搭載したことで、EVFがない高倍率ズームでも十分に使えると判断したという

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