パイオニアがプラズマ・パネルの製造から撤退、外部調達に切り替えるという報道にショックを受けた人は多いと思う。モニタータイプのプラズマテレビ「PDP-5000EX」を愛用するぼくも、同社製パネルのよさをよく知るだけに、とても残念な思いがした。自社製パネルの採用は次期製品が最後となり、その後は松下電器からパネルの供給を受けることが決定、「KURO」開発で培われたさまざまなノウハウは、今後、松下との協業態勢の中で活かされていくことになる。
でかい工場をどかんと建てて、パネルを大量生産してコストを落せる大メーカーでなければ、垂直統合のモノづくりはできない。そんなあまり面白くない時代がやってきたのは間違いなく、昨年来テレビメーカーの合従連衡が急激に進んでいる。そんな状況下、高画質技術に裏付けられた独自のテイストを持つAV専業メーカーの製品が、その存在感を失っていくのはとてもさびしい。
テレビは確かに日常の道具だけれど、ぼくたちにとっては映画や音楽ソフトを楽しむ趣味の製品でもある。だからこそただ安けりゃいいってもんじゃないだろ、と思うのだ。シアターポジションを3つも用意した趣味の液晶テレビ、「LH905」シリーズを持つ日本ビクターが国内テレビ市場から撤退か? と報道されたときも、今後この業界はいったいどうなってしまうのかと不安を覚えたが、42V型以上の大型機でもう一度国内で勝負するという。まずは一安心、ビクター、これまで以上に応援したいと思う。
さて、松下のほかに唯一の国内プラズマ・パネル製造メーカーとなった日立だが、この4月末に発売される「XR02/HR02」の画質が素晴らしく、映画を観るテレビとしてたいへんな魅力を持っていることが分かった。失礼ながら、これまでパイオニア、松下に比べて日立のプラズマは画質面で大きく劣ると思っていただけに、同社プラズマテレビ開発陣の頑張りはうれしく、その映像を観て少なからず感動した。
奇数ラインと偶数ラインを交互発光させるALIS方式、プログレッシブ表示のe-ALIS方式ともに、これまでの日立製プラズマテレビは、白ピークの伸びた明るい映像に特徴があったが、個人的には黒の再現に不満があった。暗部がぼんやりと黒浮きし、いまひとつ映像にリアリティが感じられなかったのである。
しかし、今回のプラズマテレビの新製品はその黒が抜群によい。BD「ブレードランナー/ファイナルカット」冒頭の酸性雨が降りしきる2019年のLAの夜景、その漆黒の闇を確かなリアリティを持って描ききるのだ。黒のよさを訴求してきたパイオニア、パナソニックのプラズマテレビに並び、ついにそれを追い越さんとするコントラスト表現を日立プラズマは手にしつつある、と言ってもいいだろう。
では、なぜこの漆黒の闇を実現できたか。それについて考察してみたい。
4月26日から発売が開始される新プラズマテレビは3機種。プログレッシブ表示の50V型フルHD(1920×1080ピクセル)「P50-XR02」、それに新開発ハイブリッド駆動型の50V型機「P50-HR02」(1280×1080ピクセル)と42V型の「P42-HR02」(1024×1080ピクセル)である。
黒の再現性が向上した第1のポイントとして、3モデルとも蛍光体を塗った隔壁(リブ)の構造を、従来のストレートリブから光漏れが抑えられるボックスリブ構造に変えたことが挙げられる。そして、発光プロセスを見直して予備放電(種火)のレベルを著しく落とし、不要発光を従来パネルに比べて90%減としたことが、黒再現向上の大きな要因となった。暗所コントラストは、プログレッシブ表示のXRパネルは3万:1、ハイブリッド駆動のHRパネルは1万5000:1である。
さらにXR02では、特殊素材金属の黒帯で隔壁を隠す構造を採り、反射光を30%減少させることに成功、外光が差し込む明るい部屋でも、しっかりとした黒を表現できるようになった。また、電極に薄膜タイプを採用することで放電強度を上げることができ、高輝度化も同時に果たしている。
HR02のハイブリッド駆動というのは、日立オリジナルのALIS方式を改良したもので、ピークに近い明るさが必要なシーンのみ、非発光ラインも発光回数を制御して光らせるというもの。このハイブリッド駆動により、従来の1.8倍の明るさが実現できたという。つまり、XR02、HR02ともに従来モデルに比べてコントラストを著しく向上させながら、日立プラズマの美点であった高輝度の魅力をしっかりと維持しているのである。
また、3モデルともパネルのフィルター部にAR(アンチリフレクション)コーティングを施し、外光反射を低減。目障りな映り込みをあまり気にならないレベルまで落とし込んでいる。加えてフィルターのRGBの分光特性に磨きをかけて色域を広げ、ハイビジョン放送規格比125%をカバーしたという。
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