近年、解像度向上が著しい薄型テレビにおいて、1920×1080ピクセルの解像度を備えた“フルハイビジョン(フルHD)”の製品は珍しくない。地上デジタル放送はもちろん、Blu-ray Discのハイビジョン映像をそのままのクオリティ(フル)で表示できることが、“フルハイビジョン”たるゆえんだ。
フルHDテレビの普及で浮上したのが、これまで蓄積されたVHSやDVDなどSD品質の映像。これら映像の解像度はフルHDに遠く及ばないため、全画面表示する際にはアップスケールすることになる。アップスケールの方法や精度によって映像の質は異なるが、一般的には細かなニュアンス――風にそよぐ樹木や波打ち際の輪郭、人肌のきめ細やかさ――はアップスケールによって損なわれてしまう。
そこで注目されているのが「超解像」と呼ばれる技術。超解像という言葉にはいろいろな定義があるが、テレビを中心としたAV機器においては、ただ直線的に情報量を増やすのではなく、複雑な演算を行い情報の「質」を高めることで、SD映像を高精細に見せようというニュアンスで使われることが多い。
東芝が液晶テレビ「REGZA」シリーズで推進している超解像技術「レゾリューションプラス」を例に、その基本的な考え方を説明してみよう。
レゾリューションプラスでは、3段階で処理が行われる。第1段階では、バイキュービック法により元のSD映像(A)を拡大した仮のHD映像(B)を算出する。第2段階では、後述する撮像モデル関数を使い(B)を縮小したSD品質の映像(C)を算出する。
この際に拡大と縮小のアルゴリズムが異なるため、AとCは同じSD映像だがデータに差があることがポイントだ。その差分を求め、差分に対して補正をくわえHD映像として再構成する作業がレゾリューションプラスの役割であり、それを担うのがREGZAの映像エンジン「メタブレイン・プレミアム」に含まれる専用チップ、というしくみだ。
先月開催されたCEATEC JAPAN 2008では、日立も超解像技術のデモを行っている。解像度は固定されず、つど最適な倍率を自動的に算出して高精細化を行うため、HDにSDをスーパーインポーズした映像など異なる解像度の映像も対象になることが特徴だ。NECエレクトロニクスなど複数のメーカーが超解像への対応を表明していることから、今後の薄型テレビにおける要注目技術となることは確実だろう。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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