注目の4原色技術をひっさげ、3Dテレビ市場に参入したシャープ。光配向技術の「UV2A」、新しい駆動方式「FRED」、スキャニングLEDバックライトを合わせた4つの独自技術により、クロストークを抑えながら“明るい”3Dを実現したという。その映像は“画質の鬼”こと麻倉怜士氏の目にどう映ったのか。詳しく語ってもらった。
――パナソニック、ソニーに続いてシャープと東芝が3D対応テレビを発売しました。今回はシャープについて聞かせてください
麻倉氏: 現在のフルHD 3Dの流れでいえば、シャープは決して熱心なメーカーではありませんでした。2008年の「CEATEC JAPAN 2008」でパナソニックが3D技術を披露したときもほかの家電メーカーに動きはなく、むしろKDDIやNTTドコモといった携帯キャリアが3Dをやろうとしていました。しかし今年1月の「2010 International CES」では各家電メーカーが3Dテレビを展示するなど、この半年で随分盛り上がってきました。考えてみれば、とてもバタバタした流れだったと思います。
しかし、シャープにはもう1つの側面があります。以前から裸眼立体視の技術開発に注力していたことです。かつては携帯電話に採用したこともあり、業界団体「3Dコンソーシアム」の会長会社も務めています。シャープの3Dテレビは突然発表されたようなイメージもありますが、実は3Dの技術開発に関しては、日本で一番といっていいほど長い歴史を持っています。
シャープは新規ニーズに対して好奇心旺盛な会社ですが、3Dについては過去に何度も失敗を経験していますから、とても慎重でした。テレビ事業としての3Dテレビには、あまり興味を持っていなかった一方、パネルビジネスの中では3Dの可能性に着目していたため、メガネ付き3Dのメリット/デメリットも良く研究していました。
1月の「2010 International CES」では、記者発表会こそ3Dのことに全く触れませんでしたが、展示ブースには3Dテレビがあり、しかも他社が被いを設けてブースを暗くしていたのに対してシャープだけは天井の光がそのまま入る環境になっていました。当時から画面の明るさに自信を持っていたのでしょう。
その後、2月に米国で2Dの「クアトロン」を発売し、当初は日本でも時間差を付けてハイエンドの2Dクアトロンと3Dのクアトロンをリリースする予定だったようです。しかし、今年前半の盛り上がりを見て、日本では「2D、3D、4C(4原色)」をワン・パッケージ展開することにしましたね。
――実際に見てどう思いましたか?
麻倉氏: リリースの時期こそパナソニックやソニーに1歩遅れましたが、その出来栄えを見ると、やはり昔から3Dを研究していたことが伺えます。まず、画面が非常に明るい。迫力のある輝度感を感じました。
明るさは、3D立体視ではとても重要です。光の強さというのは、絵のリソースの1つです。例え奥行き感はあっても、画面が全体的に暗いと立体感が際だたず、リアリティーをもって観ることができません。まったりした3Dになってしまいます。しかし、シャープの3Dテレビは、明るく力を持っていて、UV2Aでコントラストも改善されています。ほかのメーカーでは、例えばパナソニックの「3D VIERA」は精密でクロストークも少なく、とても良いのですが、唯一のネックが暗いことですね。
シャープは、4月の技術発表会で3Dテレビの画面がなぜ暗くなるか、というメカニズムを詳細に解説しました。メガネをかけると全体が暗くなるため、周囲の環境より相対的に画面が明るくなれば臨場感を感じることができます。理論的に3Dの輝度のあり方、メガネとディスプレイの関係を発表会できちんと述べたのはシャープだけ。3Dの基礎研究を重ね、人がどう感じるかをすごく考えている会社といえます。その背景には、UV2Aや4原色技術があったわけですが、手の内を明かしても問題ないほど競合他社との差があります。
またフリッカーに関して言うと、ほとんど問題のないレベルで、ソニーのような24P時間軸方向のフリッカーは感じませんでした。ただ、メガネには偏光板が入っていますから、蛍光灯によるフリッカーは生じます。画面に蛍光灯が映り込まないようにするとか、対策は必要でしょうね。
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