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ソニーはコンテンツ流通に風穴を開けることができるか?本田雅一のTV Style

» 2011年02月07日 13時55分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 「2011 International CES」からすでに1カ月が過ぎようとしているが、その余韻はまだ心の中に残っている。中でも印象的だったのが、ソニーの「Qriocity」(キュリオシティー)だ。Qriocityはビデオと音楽、それぞれについて、新しいコンセプトでコンテンツ流通を目指した新しいプラットフォームである。

 日本では映像配信の「Video On Demand powered by Qriocity」のみが開始されているが、海外を見ると英国とアイルランドで「Music Unlimited powered by Qriocity」(“キュリオシティ”ミュージックアンリミテッド)を開始しており、フランス、ドイツ、イタリア、スペインでもまもなく開始。世界中でのサービスインを目指している。

BRAVIAの2011年春モデルに採用された「Video On Demand powered by Qriocity」

 と、これだけが伝わっているだけだと、何が新しいのかサッパリ分からないと思う。実際のところ、映像配信に関してはストリーミング配信をします、という以上に他との違いを明確に言うことはできないかもしれない。一方、Music Unlimitedに関しては、もっとやりたいことがハッキリしている。得意の音楽分析技術を用い、分野や雰囲気ごとに自動選曲で楽曲を楽しめる音楽サービスを月額購読料制で提供するのである。

 現状はこの程度なのだが(とはいえ、Music Unlimitedは魅力だと思う人は多いかもしれない。ただし似たようなサービスは他にもあるのだが、日本では権利処理が難航してサービスができずにいる)、今、この時期に配信サービスに手を出すのには、明確な意図があるからだ。

 日本市場だけを見ると、ソニーはパーソナルオーディオの世界で首位を奪還し、iPodを抜いたというニュースがあった。しかし、ワールドワイドで見れば完敗である。直接的な理由はパソコン用管理ソフトの不出来などもあるだろうが、そもそも、今のビジネス環境の中では先行するメーカーを追いかけるには、大きな困難が伴う。ユーザーは音楽ライブラリーをすでに所有しているからだ。

 アップルはiTunesを用いたコンテンツ配信のプラットフォームを他社には公開していないため、iTunesのライブラリーを使い続けようと思えば、アップル以外の製品は利用できない。音楽だけでなく、映像や書籍なども同じだ。

 アップルは、iTunesで流通させるすべてのコンテンツから30%のロイヤリティーを徴収しているため、iTunesに対応したハードウェアの”見かけ上の”価格を抑えることも、やろうと思えば可能だ(実際には分離独立した運営になっているが、同一グループ内だけに全く関連性がないとはいえない)。

 ソニーが狙っているのは、囲い込みが当たり前になっているデジタルコンテンツ流通に風穴を開けることだ。コンテンツを囲い込むのではなく、クラウドの中にコンテンツを溶け込ませ、ユーザーは好みのデバイスを使って音楽や映像を楽しむ。

 重要なのはソニー自身が、”その中には他社デバイスがあっても構わない”と考えていることだ。つまり、時計の針を巻き戻し、相互にコンテンツが自由に行き来できる時代へと戻そうとしているのである。コンテンツの流通から抑え込まれては、ハードウェアで対抗しようにも同じ立場での勝負はできない。

UltraVioletは、DECE,LLCが推進するコンテンツ流通の新しい枠組み

 話をQriocityに戻そう。ソニーは映像配信においても、将来、ユーザーIDにひもづけて購入した映像を、必要に応じて好きなデバイスで楽しめるようにしたいと考えているようだ。北米で始まっているDECE(Digital Entertainment Content Ecosystem)による「UltraViolet」は、ソニーが主導で声がけをしているという。DECEの取り組みが花開くかどうかは今のところ未知数だが、より柔軟なコンテンツの流通をサポートすることでユーザーに利便性を与えることができれば、あるいは1つの企業の中で閉じた“iTunesエコシステム”を切り崩すことも可能かもしれない。

 そう考えながら、今年のデジタル業界をふかんしてみると、今年は面白い展開を見ることができるかもしれない。

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